誰がアンナ・ポリトコフスカヤを殺したか?

アンドレイ・バビーツキ
2006年10月10日 ラジオ・リバティ
http://www.svobodanews.ru/Article/2006/10/10/20061010000059833.html

アンナ・ポリトコフスカヤの悲劇的な死についてインターネット上で繰り広げられている議論を読むと、人間の醜悪性はもはや限りなく根深くなっていることが、まざまざと感じられます。

 熱狂的な「愛国主義者」などではないごく普通の何千人もの人々が、良心の呵責を感じずに人の不幸を喜ぶ言葉を投げつける様相は、かつてこの国で「人民の敵」が抹消されていくことをソヴィエト市民が純粋に歓喜し、ヴィシンスキーに倣い「犬に対する犬死」の言葉を繰り返していた時代と、いまの時代はさほど隔たりがないことを顕著に示しています。

 もしかするとこれは単に、憎悪が国民の義務として評価される国へと状況が舞い戻っただけなのかもしれません。

 私がアーニャ(訳注:アンナ・ポリトコフスカヤの愛称)に会ったのは二週間ほど前の海外フォーラムで、深刻なテーマで話し合ったほか、ただおしゃべりをしたりおかしな冗談で笑い合ったりしていました。彼女が非業の死を迎えるかもしれないという予測は、他の人から見ても非常に馬鹿げている考えのように思われたでしょう。あり余るほどのリスクや危険が彼女の命を脅かしていたにもかかわらず、そして彼女に対して当時の同国人(彼らこそが今日、彼女に手をかけた殺人者を賞賛しているのです)がどのような態度をとっていたのか、彼女自身よくわかっていてかすかに冷笑していたにもかかわらず・・・。

 彼女は、その活動やチェチェン政権も含めた様々な権力との関係など、多岐にわたる問題を山のように抱えていました。しかし彼女が(たとえその有益性には限りがあったとしても)話さなければならないと考えていたことを遂行していく意志に、これらの問題が影響することはありませんでした。

 彼女と同類の人々、すなわちそれぞれが真実を抱きそれを発言する権利を有している人々は、確固たる姿勢を保ち続けているという印象が強くありました。憎悪や罵言、呪詛の嵐は、このような人々に災いをもたらすことなく、またそれぞれの信条を何ら揺るがすことなく、そのそばを通り過ぎていきます。憎しみをもった人々の行為から生じ得る多くの危険は、しかし彼ら自身が恐れているが故に、真実を貫く人々を避けていくのです。

 一方で今日のロシアでは、異なる考えを持った人に対する見せしめ的な制裁は実施されていません。時々何故だか分からないのですが、権力はこのような対策を講じることを控えています。

 従って、公開処刑という形をとるような強制的な死に、アーニャの命は相応しくないと思われていたのです。

 しかしインターネットフォーラムの中で、良心と分別を喚起する一部の声が時折遮ることはあっても、大半の一般市民から上げられる歓喜の歓声を耳にした今、私は自分が間違っていたことに気づきました。そこではこの二日間で夥しい血の河が流れました。それもアーニャの血だけではありません。そこでは具体的な人々に対して新たな判決が行われ、余興を続けたいという執拗な願いの声が響いているのです。

 自分の真実を持ち続けていただけの人間、そのような女性に下された臆病な殺人について民衆が狂喜する国では、死に該当する根拠は数多く存在していたのです。

 誰が殺したのか?答えはきわめて簡単です。あなた方も殺したのです。他人の死を願うあなたたちの意思や希望を、そのうちの誰か一人が体現したのです。この「誰か一人」が、みなさんの抱く憎しみの道具となったのです。この次もあなたたちは他の標的を見つけ、その周りでみなさんの感情が凝縮されていくことでしょう。名前を持たない「誰か一人」(どこから、誰によって送られてくるのか重要ではありません)は、みなさんによって養成され、任命地点に移されることで、殺人の武器という役割を演じる者として再来するのです。そしてあなたたちはみな、自分を幸せだとまた感じることができるのです。

 けれども、みなさんが抱く憎しみは自分のものだという望みで自分を慰めないで下さい。これは、憎悪を育て上げて様々な方向へ送り出すことができる人々の所有物なのです。彼ら、すなわち強大な力と権力を有する人々にとって、あなた方というのは、愛することは強制されてもできないのに、憎むことはいとも簡単に覚えさせられるように浅はかで、虚偽や暴力には従順に従う群れなのです。(翻訳 K.I.)

ロシアで国際NGOの80%が活動停止に!

ひどいニュースです。NGO規制法によって、ロシアで活動している国際NGOの80%が活動停止処分を受けることになりました。ロシアでは、今年の4月に発効したNGO規制法によって、国内で活動するすべてのNGOに対して政府当局への再登録が義務づけられました。ところが、というか、例のごとく、再登録の条件が非常に厳しいため、当局が設定した10月18日の期限までに再登録が認められたNGOは、たった95団体。400近くの国際NGOが、「事務所に入って電気代を払う以外は何もできない」状態になっています。今回活動停止を食らったNGOは、ヒューマン・ライツ・ウォッチアムネスティ・インターナショナルデンマーク難民評議会など。これって、チェチェンの人権状況を監視するNGOばっかりじゃないですか・・・?

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言論の自由を奪われたジャーナリスト、アンナ ポリトコフスカヤ

1995年からチェチェンでの支援活動を行っているメドゥサン・デュ・モンド(世界の医療団)のメンバーによる追悼文です。世界の医療団の日本語サイトはこちらをご覧ください。
http://www.medecinsdumonde.org/japan/

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