監視社会アメリカを報告 -500人に1人テロリスト?-

 2007年11月1日の東京新聞より。

 米国の国土安全保障省(DHS)がテロ対策名目で入国する外国人に生体情報(指紋と顔情報)提供を義務づけた「USビジット」(米国訪問者・移民現況表示技術、USV)の日本版が、十一月にスタートするが、「USVは役に立たない」との声が米国内から上がっている。「米国自由人権協会」のテクノロジーと自由に関するプログラム部長、バリー・スタインハード氏が来日し、監視社会化が進む米国の現状を各地で報告した。

 先月二十七日、東京都内での集会。スタインハード氏はUSVについて「党派を問わず評価されている政府監察院(GAO、日本の会計検査院に相当)も、年間に十三億ドルが投入されたが技術的問題がありプライバシー管理も不適切、構想・計画がまずい―との調査結果を出した」と指摘。
 集会に参加した「外国人・民族的マイノリティ人権白書」の共著者、旗手明氏によると、「十四歳未満」「八十歳以上」「米国永住者」「外交官」などの外国人はUSVの対象外。カナダ人、メキシコ人の多くも除外されているが、同盟国を自認する日本は除外されていない。
 同氏によれば、すでに約一億件の生体情報が集められ、七十五年間、保存される。「情報は政府や各州の法執行機関が利用でき、利用可能者は十万人以上ともいわれる。極めて危険だ」
 スタインハード氏は、米国にはほかにも「データマイニング」「旅客プロファイリング(PNR)」など、大量の個人情報収集システムがあると説明。
 データマイニングは大量の個人情報をコンピューターにかけ、テロ計画を予知。「ワッチリスト」(テロ容疑者ブラックリスト)に、先月末時点で七十二万人が登録されているという。スタインハード氏は「米国は五百人に一人がテロリストということになる。使い物にならない情報だ」と不正確さを皮肉った。
 PNRは、旅客機の乗客データを送ってくるよう、DHSが各国に呼びかけたシステムだが、プライバシー権に敏感なヨーロッパ各国の反応は悪いという。
 スタインハード氏はNSA国家安全保障局)の大規模盗聴システムのお粗末ぶりにも言及。「連邦捜査局(FBI)の人たちは『また、ピザハットかよ?』と言っています。(電話盗聴でテロ容疑者を見つけたという)タレコミをもらって駆けつけてみると、実は、ピザの注文電話をしただけの人だったというケースが、あるようですね」
 テロ対策名目の監視社会が招いた悲喜劇も報告された。スタインハード氏は「ロンドン発ワシントン行き航空機が緊急着陸させられたことがある。シンガーソングライター、キャット・スティーブンスとして有名なユスフ・イスラム氏が搭乗しており、なんと、彼はワッチリストに登録されていたのです」「長年、ニューヨークに暮らす研究者も米国への再入国を拒まれた。イスラム教徒で、イラク戦争を批判したことがあったからでしょう」
 スタインハード氏によると、ノーベル平和賞受賞者ネルソン・マンデラ氏も入国できなかった。マンデラ氏は反アパルトヘイト(人種隔離)運動で反逆罪に問われ、長期間、身柄拘束の後、南アフリカ共和国大統領になったが、驚いたことに「アパルトヘイト時代の犯罪ゆえにテロリストのリストに載っていた」のだという。
 日本版USVは「十六歳未満」や「特別永住資格者」などを除く外国人が対象だが、日本人も「自動化ゲート」システムに生体情報(両手人さし指指紋)を提供すれば、他人より早く搭乗できる。プライバシーで利便性を買う時代がきた。

「『日本版US-VISIT』施行の中止を求める!」10.27シンポジウム アピール

 集会で採択されたアピール文はこちら:
 http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=394