オーストラリアの入管行政について

 これまで日本の難民問題についていくつか取り上げてきましたが、今回はオーストラリアの入管行政をめぐるアムネスティの文書を紹介します。文書によると、オーストラリアは難民認定率が80%と、日本ではとても考えられないほど*1難民に対して開放的な国なのですが、1992年から「強制収容政策」という恐ろしい政策を取っています。
 強制収容政策というのは、オーストラリアに入国する際、ビザなど有効な書類を持っていない人を自動的に収容する政策です。収容されている人々は、その収容の必要性に関する司法審査を要求する権利もなく、難民申請者はその申請の結果が出るまで基本的に釈放されず、場合によっては何年も収容所にいなければならないそうです。さすがに現在ではなくなりましたが、以前は子どもまで収容されていました。当然ながら、アムネスティ・インターナショナルは、オーストラリア政府を強く批判しています。
 情報はSさんより。ありがとうございます。(邦枝)

難民申請者の強制収用

 1992年9月以来、オーストラリアでは、正式な旅券を持たずに入国したすべての人間は、即座に収容されることになっている。
 かれらは、数時間から数年間にわたって収容され、ビザが発給されれば解放されるが、そうでなければ国外退去となる。
 正式な旅券を持たない難民申請者は、自動的に収容されることになっている。かれらは、行政官や裁判所が収容はやむをえない、または適切なものであるかを判断するまでは、起訴されることもなく、出廷することもない。
 子どもたちとその親を例外として、オーストラリアの法律では、難民申請者を、申請が進められている期間中、収容することができる。
 強制の問題−長期にわたる難民申請者の収容−をめぐるオーストラリアの世論は割れている。アムネスティ・インターナショナルは、国内の治安を維持する必要性と、初期の収容が健康や安全、身元確認のために必要かもしれないことは承知している。しかしながら、長期収容の影響と、なぜこれが基本的人権の侵害に当たるのかということについては、討論しなければならない。
 国際人権法は、政府が、自動的に、または合理的な期間を超えて、人々を収容してはならないことを定めている。オーストラリアでは、現在も行なわれている無期限の収容は、個人の自由および恣意的な収容からの自由に対する深刻な侵害に当たる。
 アムネスティは、難民申請手続きの遅れによって−それが申請の遅れによるものであれ他の要因による遅れであれ−難民申請者を収容し続けることを正当化するとはできないと考えている。
 1951年の難民条約−オーストラリアも批准した人権条約−は、迫害からの庇護を求める難民は有効な書類を持たずに入国した場合にも罰せられないことを明確に定めている。迫害から逃れてオーストラリアに逃れてきた人は誰でも−入国方式や書類の不備にかかわらず−この権利が認められなければならない。
 アムネスティ・インターナショナル・オーストラリアは、難民申請者に対して現在も行なわれている恣意的な収容の影響を強く懸念している。収容所の柵の内側にいる人々の大半は、暴力と虐待という状況から逃れてきた人々である。かれらは愛する者を失ったかもしれないし、住み慣れた家を突然追われてきたのかもしれない。そうした心的外傷を持っているため−ときには遠く離れた−過酷な場所で隔離されることの影響は、さらにかれらの精神的な絶望と苦悩を深めてしまう。
 庇護を求める被収容者の80%は難民認定され、オーストラリアの滞在ビザを与えられる。この難民認定率の高さは、被収容者がいわゆる経済難民−オーストラリアの政策で阻止するべき不法な入国者−ではなく、かれらが収容によって実際に深刻な人権侵害を受けているという懸念を深めるものである。
 アムネスティ・インターナショナルは、収容の状況と影響について、懸念を表している多くの団体の一つである。
 2002年7月、国連難民高等弁務官がオーストラリアの収容施設を視察し、オーストラリアの収容体制を「人間の尊厳に対する侮辱」であると表現し、難民収容所にいる人々の置かれた状況について「深刻な懸念」を表明した。

いくつかの見直し

 2005年6月、英連邦のオンブズマンが、難民収容所に2年以上いる人々の収容を見直す権限を与えられた。
 オンブズマンは、個別の事例について勧告し、報告書は議会で討議された。勧告の中には、ビザの認定と、医療施設への移送、収容の代替案といったものもあった。
 入国担当大臣にはオンブズマンの勧告に従う義務はない。報告はその後六ヶ月ごとに行なわれている。オンブズマンの報告の中には、被収容者に対する扱いに極めて批判的で、精神疾患と悪質な管理の問題を強調するものもある。
 一方、被収容者は収容に異議を申し立てる手段を持たず、オンブズマンは2年以上収容されていない事例を扱うことはできない。被収容者は犯罪を犯したわけでもなく、多くの人々は難民として後に解放される。

無期限の収容・・・難民の現実

 アムネスティ・インターナショナル・オーストラリアは、難民条約のもとでは難民認定される資格がないが、どこにも行くあてのない、いわゆる「認められない難民申請者」とその子どもたちについても、深刻な懸念を持っている。こうした人々−どの国にも市民として認められることのない「国なき」民−を、永遠に収容しておくわけにはいかない。
 2005年、オーストラリア政府は、退去保留ビザを導入し、入国担当大臣の裁量で、収容が長期におよび、オーストラリアからの退去が審理中であるが遅れている人々に対して、退去保留ビザを与えるようになった。
 そうした遅れは、身分証明書を入手する必要性や、他国当局の協力を得るのが難しいことによってもたらされる。
 けれども、身分証明ができないような、いくつかの遅れに関する問題には、解決されないものもあり、それによって難民申請者は、権利を制限され、無視された状態に陥り、オーストラリア社会への参加も阻まれてしまう。
 また、国家は、「認められない難民申請者」の帰国を拒否する場合がある。これはよくイランで起こっている。イランは、サブエン、マンデーンズ、クルドのような少数民族が帰国することを認めようとしていない。
 したがって、こうした人々は、収容状態で、あるいは安全を保障されるわけでもないビザによって、オーストラリアに留まることになる。
 かれらは決して起訴されることもなく、長期にわたる収容に異議申し立てをすることもできず、総じて他の在留資格を申請することもできない。

*1:難民認定制度ができてから2006年末までの25年間の日本の難民認定率は約8%。