沖縄性暴力事件をどう語るか

 2月10日、沖縄で14歳の女子中学生が米海兵隊員に暴行されるという事件が起こりました。すでにご存知の方が多いと思いますが、6紙の社説(産経は「政論探求」)を読み比べて考えたことを書いてみたいと思います。

 事件については、アジア女性資料センター、アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)、ふぇみん婦人民主クラブが、抗議声明への賛同を募っています。締め切りは17日(日)です。よろしければご協力をお願いいたします。(邦枝律)

 http://www.ajwrc.org/modules/news/article.php?storyid=379

朝日 2/13 社説 「米兵少女暴行―沖縄の我慢も限界だ」

 まずは、朝日新聞の社説から。内容を簡単にまとめると:

  1. 事件は許しがたい
  2. これまでも米軍は再発防止を約束してきたが米兵による犯罪はなくならない
  3. 米軍は今度こそ再発防止に全力を挙げて取り組むべきである

というもので、朝日購読者には申し訳ないのですが、6紙の中で最も内容の薄い文章だと思います。とりわけ、「許しがたい性犯罪がなぜ、こうも繰り返されるのか。強い憤りを覚える」と冒頭で述べておきながら、米兵による暴行事件が多発する原因についての考察や、再発防止策に関する具体的な提案が一つもないというのは、かなり寒いのですが・・・。

読売 2/14 社説 「沖縄米兵暴行 実効性ある再発防止策を」

 次は、読売新聞の社説です。こちらは:

  1. 事件は許しがたい
  2. 日米両政府は実効性のある再発防止策の早期策定と徹底に全力を挙げるべきである(具体的には、米兵への教育や外出規制、巡回態勢の強化など)
  3. 沖縄は、沖縄の負担軽減と事件の再発防止の観点からも、米軍再編計画の進展に協力するべきである

というもの。読売購読者にも申し訳ないですが、2はこれまでにも散々検討・実施されてきた対策なので、今さら「実効性のある再発防止策」になるとは考えにくいです。ちなみに、3の米軍再編によって沖縄の負担が軽減されるという見方には、県民の66%が否定的。もっとも、沖縄県での読売新聞の世帯普及率は0.1%以下なので、不買運動をされる心配はないのかもしれませんが。

毎日 2/13 社説 「沖縄米兵事件 凶行を二度と起こさせるな」

 毎日の社説はこちら:

  1. 事件は許しがたい
  2. 日本政府は根本的な再発防止策を米軍に約束させるべきである
  3. 日米地位協定の見直しも視野に入れてはどうだろうか

 なぜ米兵による暴行事件が後を絶たないのかという理由として、日米地位協定の存在によって、米兵の「身柄を日本側が確保できる保証はない」ことを挙げ、より踏み込んだ分析を行なっています。今回の事件は、容疑者の米兵が基地外に住んでいたこともあり、日本の警察が身柄を確保して捜査を始めることができましたが、日米地位協定では、米国側が容疑者を逮捕した場合、日本の検察が起訴するまでに身柄の引き渡しが行なわれるかどうかは、あくまで米国側の判断に委ねられることになっているからです。

東京 2/13 社説 「沖縄少女暴行 繰り返した米兵の野卑」

 東京新聞の社説は、よりはっきりと日米地位協定の見直しを打ち出しています。

  1. 事件は許しがたい
  2. 政府は事件の根絶に本腰を入れるべきである
  3. 日米地位協定の見直しを検討すべきときだ

 日米地位協定によれば、現時点でも米軍が容疑者の身柄の引渡しを要求してくれば、日本側はそれに応じなければなりません。ただ、地位協定の見直しによって事件を「根絶」できるかといえば、それも現実的には難しいと思います(米兵による沖縄市民への犯罪をゼロにするためには、結局のところ、沖縄から米軍基地を撤去するか、沖縄から市民を強制移住させるほかないため)。

産経 2/12 「『反基地』勢力が叫ぶいかがわしさ」

 そして、最もインパクトが強いのが、この産経新聞の記事。あまりにびっくりしたので、ぜひ読んでいただきたいのですが:

  1. 事件は許しがたい
  2. 「これでまた、普天間飛行場の移設問題で、地元の首長や議員たちが日和見を決め込む理由ができた。基地との共存共栄以外に沖縄がたどるべき道はない。そのことを百も承知していながら、彼らはからだを張ってこなかった」
  3. 「『知らない人についていってはダメ』。筆者などの世代は子どものころ、親から口うるさく言われたものだ。米軍基地が集結する沖縄である。夜の繁華街で米兵から声をかけられ、バイクに乗ってしまう無防備さ。この基本的な『しつけ』が徹底していなかったことは無念、という以外にない」

 ・・・!!??という内容です。

 沖縄に在日米軍基地の75%を押しつけておきながら(沖縄県民の72%が普天間基地の移設先として「ハワイやグアムなど米国」を挙げている)「基地との共存共栄以外に沖縄がたどるべき道はない」?「彼らはからだを張ってこなかった」?沖縄での米兵による女性への性犯罪がこれほど起こっているのに?そして、最後は親の「しつけ」と来ましたか・・・。

沖縄タイムス 2/13 社説 「なぜ根絶できないのか」

最後に、沖縄タイムスの社説を。

  1. 事件は許しがたい
  2. 「事件を防げなかった責任は日米両政府はもちろん、私たち大人にもある」
  3. 「県民が求めているのは、法律によって裏付けられた『抜本的な再発防止策』だということを認識するべきだ」

 というわけで、やはり日米地位協定の見直しを求めています。

米軍再編について

 ところで、沖縄タイムス毎日新聞を除く各紙は、程度は異なるにせよ、事件によって米軍再編(普天間基地辺野古への移設など)に影響が出ることへの懸念を表明しています。けれども、沖縄県内の基地移設を推進または容認する立場に立つ以上、事件の有効な再発防止策を考えることなどできないのではないでしょうか。14日、高村正彦外相は、日米地位協定の見直すつもりはないと述べました。

 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080214-00000139-jij-pol

 被害に遭うのが「彼ら」であって「私たち」でない限りそれに反対できないなら、私たちはいつかその報いを受けるのではないでしょうか。あるいは、それはもう始まっているのかもしれませんが・・・。

 http://atsukoba.seesaa.net/article/19265503.html

 こちらもぜひ:
 行動するための講演&シンポジウム 「佐藤正久(元イラク先遣隊長)の闇を照らす」
 http://ankoku-mirai.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_0740.html