ロシアのネット監視の現状とこれから

New Times 08年3月17日 57号

 中国に追いつけ追い越せ。クレムリンや内閣のメンバーが入れ替わることについて、いつもの通りの恐怖が改めて語られた。それはロシア政府がネットを管理しようとするだろうという懸念であり、これはすでに中国、キューバ、イランの同士たちが前例を作っている。「主権ネット」プロジェクトの神話と真実にNew Times が迫った。 [翻訳 T.K.さん]
イリヤー・バラバノフ 記者

 周知のごとく、プーチン大統領は 就任初期にテレビを見ることを大変好んだ。その結果、中央テレビ放送のコントロールパネルは民間の手から国に移り、ロシアの政策の主要なツールの一つとなった。成功を報じるヴァーチャルリアリティが現実に取って代わり、ロシアのビッグ・ブラザーの格を最高に引き上げた。およそ1600万人ほどの、少し進んだ人々はテレビのスイッチを切り、グローバルなインターネットに腰を据えた。テレビチャンネルからはずいぶん以前に姿を消してしまったすべてのこと、つまり、情報、分析、ディスカッションが、ネットにはまだ今のところあるからだ。ところが、プーチンの後継者であるドミートリー・メドヴェージェフ氏も、今ではどこでも聞けないようなことが、インターネットでは、自分についてのことも含めて聞けるということを知っている。Runetは不安にかられた。国のトップや何らかのメディアリソースに愛着があると言うことは結局これらのリソースそのものが権力に従順であるという結末を迎える、それはORT,NTV,TB−6で、そしてその後いたるところで起きたことだった。では、ネットをどのようにしたら鎖につなぐことができるのか? それは可能なのだろうか? The New Timesの調査の結果、クレムリンにとってそれは困難はない事だが、そのプロジェクトは大変高価なものとなるということが分かった。

万里の長城

 たとえば中国の経験がある。「中国のファイアーウオール」、ファイアーウオールは特別のサーヴァーというか、ネット上で、ユーザーとプロバイダーのあいだに作られたサーバのシステムである。この「フィルター」はネット市民をウィルス、スパム、ハッカーから守るために開発されたもの。しかし、これはまた、ビッグ・ブラザーが国民にとってはよけいなものであると見なす情報から国民を「守る」ためにも、効果的に使うことができる。中国政府はこれを見事に活用して、このバーチャルな「ウォール」で塞いで、国民がみるべきでないサイトにアクセスできないようにしている。しかも、この目的のために、中国政府は世界的な大企業すら利用している。たとえば、2003年にYahooは中国政府の要請により あるユーザーについてのデーターを提供した。その人はあるネットカフェから国際人権団体Human Rights Watchのニューヨーク支部に中国の反体制派がどんなにつらい眼にあっているかを知らせていた。その結果 32歳のダチュウ・リ・チは8年の禁固となり、Yahooは国際人権団体から一連の告訴をされることになった。2007年には万里の長城ならぬ中国ファイアーウオールは国民がYahoo, Google, Live.comの検索をつかうことが出来ないようにブロックした。

Runetはなぜ Chinetではないのか?

 中国の成功を過大評価すべきではない。中国で活動が許可されているプロヴァイダーはふたつだけで、どちらも国に属している。ネット上の情報では、現在ロシアには約1万あまりのプロバイダーが活動している。そのどれもがこのようなファイアウォールを設置できるだろうか? 「技術的には可能である」とモスクワ大学ジャーナリスト学部のイワン・ザスルスキー主任は言う。
 「当局はインターネットを相手にして何かやることは出来るでしょう」しかし、たんに閉鎖や検閲が問題なのではない。必要なのはどのような情報がどこからやってくるのかを明らかにすることだ。Runetの生みの親の一人であり、SUP社のブログのサービス主任アントン・ノーシクはさらに断定的にこう言う。
 「技術的にはなんでもできる。破壊は 建設ではない、どうでもよい。通信省からの通達一本で十分だ。これを行う可能性はあるが、これをやろうと決心する人は誰もいないことが問題だ。われわれの誰もが恐ろしいことになる予感をもっているだけに、ネットに検閲についての小さな悲鳴でも聞こえたらヒステリックな反応が起きるだろう。しかし、田舎の住民の恐怖心と実際のオオカミの行動を同一視するべきではない」
 <世界一周 Ru>というポータルの編集長、エゴール・ブイコフスキーも、インターネット管理は権力がどんなに望んでも、非常に難しいだろう、と予想している。「Runetに検閲を導入するのは、石油パイプラインで、その管壁に沿ってある時間走る石油の塊を捕まえようとするに等しい」と。

 一方、ロシアのどのプロヴァイダーも通信省の認可で営業している。2000年の始めに通信省はすべてのプロヴァイダーにCOPM система оперативно-розыскных мероприятийというシステムを設置させた。COPM−1は1996年に作られた電話交信盗聴システム、COPM−2は2000年に作られたインターネット監視システムだ。理論的にはこのシステムによって数十億バイトでもビットでもネット情報をすべて追跡できる。実質的にはこのシステムは一連の単語を追跡できるようになっている。つまり誰それ某がネット交信に「テロ」「爆弾」「クレムリン爆破」「大統領殺害」のような言葉を使った場合、某をFSBがマークする。もちろん、FSBがこれらの言葉を含んだ数千のメールのなかでことに選別し、犯罪の意図を見いだした場合だ。COPMのシステムがプロヴァイダーのサーヴァーに2000年のはじめから設置されているにもかかわらず、このシステムのおかげで犯罪が摘発された例はひとつもない。したがって、クレムリン、FSBあるいは通信省がロシア流「ファイアウォール」を構築することにしたとしても、プロヴァイダーは邪魔にはならない。ロシアの技術屋はかなりのレベルのものだ。多くの大企業にはローカルな「ウォール」が設置されており、社員がチャット、ブログ、フォーラムや社会的なネットを使えないようにしている。

技術的解毒剤

 そうなったときには検閲への道に何が立ちはばかるだろうか? もっとも単純な方法はアノニマイザーだ。もしロシアが中国がとった道を行ったならアノニマイザーの出現は不可能だっただろう。しかし、もうできてしまったからにはどうにもならない。アノニマイザーとは、単純化して言えばこれはネット上の専門サイトで、それによってユーザーはその移動を完全に暗号化することができる。

 まさにこういうソフトを使って、モスクワのオフィスにあの大部分のマネージャーたちは 様々なブログ、フォーラム、出会い系サイトなどへの技術的指令の禁止をくぐりぬけ、おかみの通信網をつぶしつづけているのだ。「具体的にはプロキシサーバやそのほかの方法を用いてフィルタをくぐることは出来るが、大量の受信者をカットすることはできる」と「Kompromat Ru」のオーナーであるセルゲイ・ゴルシコフは考えている。最近ゴルシコフ自身が似たような問題にぶちあたった。いくつかのプロバイダーが彼のサイトへのアクセスをブロックしたのだ。しかし、この情報がマスコミで取り上げられ、一部のプロヴァイダーはこのブロックを解いた。しかし、だれもがそれほど楽観しているわけでもない。「暗号化したプロトコルを使って(つまりアノニマイザーをつかえば)フィルターをすり抜けることは出来るーとSUP社の技術担当シャゲン・オガジャニャンは語るがーもし、国がRunetを外界に対して閉鎖することを決断した場合には対抗手段はない。つまり、国が課題としてすべてのプロバイダーとユーザーを管理することに決めたら、つまりアノニマイザーを使うような「ハッカー」たちを摘発することを決断したら、あとは時間の問題だろう」と言う。このような方法を使って、中国やイランでもその道にたけているユーザーたちは禁じられているインターネットサイトであるウイキペディアを読むことができる。しかし、もちろん、問題は国が外国のインターネットリソースをブロックしてしまう場合だ。もしも、北朝鮮のように唯一のサイトが各国語で存在するだけで、国内の人間に対しては外国のすべてのサイトが禁じられたら、どのようなアノニマイザーも役にたたない。同じような状況なのがキューバで、医師以外はインターネットを使うことが法律で禁じられている。

無人島 RU

 Runetを外界から切り離すのは理論的に可能である。ヨーロッパがアメリカと大西洋横断ケーブルで結ばれているのと同じく、ロシアも世界の国々とケーブルでつながっており、それは ポーランドフィンランド、沿バルト諸国の国境を通って敷設されている。そうしたケーブルは極東にも伸びている。しかし、ある瞬間、国がこれらをすべて断ち切ってしまおうと決断しないとは、誰も保証できない。

 もっとも、Runetを外界から完全に切り離す必要もない。The New Timesが質問した専門家たちの一致したところは、インターネットに対する苛酷な処置がなされるとすればその主要な目標は大衆を「有害な」情報から切り離すことだ。ロシアのテレビの例が示しているとおり、もし視聴者が望めば、比較的自由なニュースをREN TVで見ることができるが、その格付けは第一チャンネルよりずっと低く、普及範囲も国営チャンネルとは比較にならないほど狭い。インターネットでも同様の例がある。クレムリンのイデオローグたちがインターネットーマスコミを取り締まろうと考えたとき、まず自前の巨大な出版所をつくりそれを宣伝することに数百万ドルを投じた。その成果はたちまち上がり、独立系のネットは読者を失った。従って必要とし、関心さえあれば、情報は必ず見つけだされる。「ロシアのファイアーウォール」が存続しようとしまいと、政治に無関心な国民の大部分は、今第一チャンネルの夜の番組を見ているのと同じく、おとなしくkremlin.ruのサイトでニュースを読むようになるだろう。

 2007年2月15日22歳のスィクティフカルのブロガーでロックグループのメンバーが、ロシアの町のメインスクエアで毎日一人ずつ「不誠実なポリ公」を焼き殺そうというハードなコメントをブログに書いた。その結果家宅捜索がおこなわれ、彼はパソコンを押収され、刑法第一部、第282条「敵意や憎しみを煽動した、あるいは人間の尊厳の撲滅を煽った」罪を問われ、移動禁止の措置をとられた。これはロシアで初めてオンライン日記のコメントが告訴された例で、3月12に日にサッヴァ・チェレンチエフの事件は提訴された。

 2007年4月19日、哲学教師でジャーナリストのキリル・マルティノフ氏がインターネットの日記に次のようなことを記して公開した、彼の奥さんが「娘を殺そうとした」咎で逮捕された、根拠とされたのは隣人である11歳の少年の供述だった。この日記の記述があちこちのネット日記に引用されたちまち広く知られることとなった。これは連邦テレビも報道し、マスコミもオンラインマスコミも取り上げ、それには社会院のメンバーも積極的に参加した。あまりに広い反響に検察はアントニーナ・マルティノワに対する措置を変更し、捜査官を変えなければならなくなった。しかし、今年の2月22日にキリル・マルティノフはブログの記述に対して刑事訴追された。刑法の第310条「予審のデータを公表した罪」だ。3月5日キリル・マルティノフは憲法裁判所に控訴し、現行刑法の310条が憲法に違反していないかの疑義を唱えている。

原文: http://newtimes.ru/magazine/issue_57/article_12.htm