戸山灰個展「チェレンコフの光」 ("CHELENKOV RADIATION" KOYAMA Kai Art Exhibition 20-25 Dec 2016)
2016年12月20日〜25日 10:00〜18:30(最終日17時まで)「アートガーデンかわさき」
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ごあいさつ
* 「チェレンコフの光」は、水の中を高速荷電粒子が通過するときに、光が放出される現象のことだ。水で満たされた原子炉が臨界に達したとき、中心に置かれた燃料棒の近くが青白く光るという。その光のことを想像してみる。
* 世の中には、人や風景を描く、いわゆる具象画というものがあり、そうではないものは抽象画と呼ばれている。わたしはここしばらく、「そうではないもの」ばかりを描いている。愛らしさも、懐かしさも、エロティシズムもあまりない。
そういった情緒とは関わりのうすい、図形や直線、それに面に画家としての衝動を預けていると、ふだん目にうつるものを描くのとは、また別の表現の回路がつながっていくのに気がつく。
* 放射線は目に見えない。けれどもこの光は、福島の事故以来、私たちの回りにあまねく存在し、私たちの体をいつも射抜いている。そのうちのいくつかは、青白いチェレンコフの光を発しているかもしれない。
ただ確実に言えるのは、その放射線が細胞の核に衝突しては、DNAの配列を破壊していることだ。子どもたちの体には、ことに強く作用する。その見てはならない光のイメージが、この数年間、視界から消えてくれない。
* ところで、赤という色はよく目につく。大事なものは、赤で示される。テストの点数、標識、書類の中にある注意すべき項目。赤は血の色、命の色で、それゆえに心から真実を訴える声の色であり、怒りの色でもある。
結婚の約束は赤く染まった糸として、人の小指から小指へとつながっているのだという。
やがて赤は、国家との「絆」の色として再利用される。血液から生まれた赤子が、赤い召集令状によって集められ、赤い旗のもとで血を流して、消えていく。こうして赤のコレクションを作ってみた。
* 黄色い絵が描けた。連想したのが、イエローケーキだった。それはウランの鉱石を精錬したもので、成分はウラン238。
明るい色彩の絵には希望がある。核兵器と原子力。その絶望の源であるウランと、希望の象徴である「光」を、一枚の絵に共存させてみたい。
子どもたちに原子力も核物質もない未来を手渡せたら、どんなにいいだろう。「イエロー・ケイクス」。ウランではなく、おいしいケーキとお茶を。
* 憂鬱な世の中だけれども、チェレンコフの光がエネルギーの通過した波紋であるように、ここにある作品が、私たち自身の生きた痕跡や、波紋になってくれればいいと思う。
ずっと後になって、あんなものに恐れたり、怒っていた時代もあったねと、笑い合う明るい午後のために。