チェチェンニュース Vol.08 No.07 2008.07.20

http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080720/1216529431 (HTML版) 発行部数:1669部
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今回は夏休み向けの書評をお届けします。イベント情報が直前になって申し訳ないのですが、今日と明日はよりどりみどり。ぜひお出かけください。

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INDEX

* [書評]『廃墟の上でダンス チェチェンの戦火を生き抜いた少女』は
   中高生におすすめ!
* 作家アナトーリィ・プリスターフキン死す

* ディアスポラチェチェン
* 英MI5、「リトビネンコ暗殺はFSBの犯行」とふたたび情報リーク
*「リトビネンコ事件捜査は終了しない」英首相G8サミットで
*「リトビネンコ事件はロシア政府に責任あり」イギリスの元高官が語る

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[書評]『廃墟の上でダンス チェチェンの戦火を生き抜いた少女』は中高生におすすめ!

 
(ミラーナ・テルローヴァ著/ポプラ社 \1,500 )

 もうじき夏休みが来るので、小さな読書家たちにはぜひこの本を読んでほしい。 チェチェンでの戦争を子どもの頃から経験し、今は遠いパリで勉強をしている若い女性の書いた本だ。だまされたと思って読み始めてみれば、きっとタイムマシーンに乗り込んだように、1994年のチェチェンの世界にいるのに気がつくはず。

 14歳のミラーナは、村の学校のダンスパーティーを待ち望む平凡な女の子だ。けれどもパーティーの代わりにやってきたのはロシア軍の戦車で、その年の冬に第一次チェチェン戦争が始まろうとしていた。

 南ロシア、コーカサス地方の小さな国であるチェチェンイスラム教の国だけれども、土着の信仰も残っている。長年仲の悪かったロシアからの独立を宣言していたが、ロシアはチェチェンを諦めていなかった。

 戦争の音が聞こえるようになると、村のお母さんたちはイスラム以前にいた「川の女神」のことを思い出した。ある満月の晩、ミラーナたちは巫女代わりに川に行かされ、災いが村に来ないように祈った。大人たちは藁をも掴む思いでそれを見守るけれど、ミラーナはなぜか、チェチェンはもう見捨てられているような気がしてならない。

 やがて村に戦闘機がやってきて、爆弾の雨を降らせて人々の命を奪い始めた。

 ミラーナの国を襲ったチェチェン戦争は、もう14年近く続いている。だから、日本の中高生が学校に行ったり、アルバイトをしている時、チェチェンの子どもは爆撃機から隠れて地下壕で過ごしていたことになる。

 ミラーナは勉強してチェチェン国立大学に進んだあと、機会に恵まれてパリに脱出する。フランスはミラーナが「奇跡のようだ」と思うほど豊かで、新しい友だちが勉強を助けてくれた。

 けれど戦争はミラーナを放っておかない。チェチェン抵抗勢力の大統領マスハドフが暗殺されたニュースが届き、ミラーナは「父を殺されたような気持ち」になった。早くからチェチェンを離れざるをえなかった人々にとって、和平交渉を訴えていたマスハードフだけが平和への希望だったからだ。

 皮肉なことに、戦争がミラーナを成長させた。安心して暮らせるフランスから、チェチェンに戻り、またフランスへ行く。そして人々に聞かれるままに、チェチェンの惨状を語り始めるのだった。戦争がひと段落しても、むりやり作られた「平和」の中で人々の心が汚れ、やる気もなくなっている。人権侵害も隠れたところで起こっている。

 「言葉でこれを変えられるだろうか?答えは<ノー>だ・・・それでも続けなければならない。外国で語ることなどできない人々のために、続けなければならない」そうミラーナは決意する。

 訳者の橘明美さんによれば、ミラーナは情報の交流のために、グローズヌイに「ヨーロッパ文化センター」を作ろうとしているという。

 胸が締め付けられるようなエピソードをたくさん交えながらも、この本には、チェチェンでの戦いを見て生きながら、絶望せず、何かよいものを作っていこうとする若い芽がある。まだ戦争を知らない日本の若い人たちに、ぜひ読んでほしい。一人でもこの話に心を打たれる人がいるかぎり、ミラーナの努力は無駄ではないと思うからだ。(大富亮/チェチェンニュース)

書籍情報: http://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=80003810

作家アナトーリイ・プリスターフキン死す

(7/11 AP)7月11日、作家で、1990年代を通じて大統領直属の恩赦委員長を務めたアナトーリイ・プリスターフキン氏がモスクワで死亡した。76歳だった。プリスターフキンの死はロシアの国営メディアで広く報道され、プーチン首相も哀悼の意を表明した。死因は報道されていない。

 プリスターフキンは、1992年から2001年までの間、大統領直属の恩赦委員会で委員長を務めたが、プーチン大統領政権になってからこの委員会は廃止された。エリツィン時代、この委員会では人権活動家なども委員となって毎週会合を持ち、過密化した刑務所からの山のような受刑者簿を調べては恩赦の対象者を決めていた。この恩赦委員会により、9年間で7万人が刑を免じられた。

 この委員会をプーチンが廃止してから、恩赦の権限は地方政府に移管され、対象者数は激減した。2004年には72人、05年には42人、06年にはわずか9人となり、07年にはついに一人もいなくなった。

 プーチンは故人について、「アナトーリィ・イグナチエヴィッチは、誇り高く生き、人間性の理想を確信し、道義の勝利を実現しようとされた」と賞賛する談話を発表した。

 生前、プリスターフキンは26冊の本を書いた。もっとも知られているのは1987年に出版された小説「コーカサスの金色の雲」で、これは作家本人の孤児時代をもとにしている。1931年10月17日、モスクワの郊外で生まれ、第二次大戦当時の少年時代は孤児だった。

http://www.iht.com/articles/ap/2008/07/11/europe/EU-Russia-Obit-Pristavkin.php

(以下解説と雑記)

 表記は「アナトーリィ・プリスターフキン」が群像社の「コーカサスの金色の雲」にあり、その他「アナトーリー・プリスタフキン」などとも。

 この「コーカサスの金色の雲」は、モスクワとチェチェンでの孤児生活を描いた自伝的小説で、悲しみと小さな希望でできた、美しい物語だ。もちろんチェチェン人も登場する。映画版の「金色の雲は宿った」はロシア映画社が配給していて、ごくたまに見ることができる。

 この作品に描かれている時代はチェチェン民族の強制移住の頃なので、今のチェチェン問題がどうして存在するのかということが、読めばとてもよくわかるようになっている。ひところはよく人に勧めて、映画の上映会を開いたりした。今もその気持ちは変わらない。

 それにしても、死亡記事というのは、どうしてこう、なにもかも確実に書かれていて訳しやすいのだろうと思いながら日本語に移した。人が死ぬと動けなくなるから、棺という小さな空間に収まってしまうのと同じように言葉も萎縮してしまうのだろうか。しかしこの記事、プーチンに対しては、そうとう嫌みである。

 プリスターフキンがいなくなり、一方でミラーナ・テルローヴァのような若い書き手が現れたのは、戦争のせいとはいえ、きっと貴重なことなのだと思う。合掌。(大富亮)

 藤沢和泉さんによる書評と、貴重なプリスターフキンへのインタビュー記事、米原万里さんの書評などを特集したページがありますので、よかったらそちらもご覧ください。

http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20070717/1183617429

ディアスポラチェチェン

チェチェン 共和国独立貿易ユニオンの会長を務めたラムザン・アンプカエフ氏へのインタビュー。海外にチェチェン人はどれだけいるのでしょうか?

ラムザン・アムブカエフ:ざっと調べたところでは、10万人以上のチェチェン人がヨーロッパにいますね。独立国家共同体(CIS)にいる人たちは別として。この人々のほとんどは、ヨーロッパに来てから子どもを設けてもいます。チェ チェンからの難民は毎日のように到着しています。チェチェン人の、歴史的な領土からの脱出が続いているわけです。4、50人の人が、毎日ポーランドベラルーシの国境をこえてきます。これだけの多くの人々がヨーロッパに来ると言うのは、もはやチェチェンの歴史的な出来事になったと言ってもいいでしょう。

くわしく読む: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080716/1216173297

英MI5、「リトビネンコ暗殺はFSBの犯行」とふたたび情報リーク

(7/8 産経新聞)英BBC放送は7日、英対内情報部(MI5)幹部の話として、2006年11月、プーチン前政権を批判していたロシア連邦保安局(FSB)元幹部、リトビネンコ氏が毒殺された事件にロシア政府が関与していたことを強く示す証拠があると伝えた。

 この幹部はBBCに、「毒殺はFSBによって実行されたが、通常、FSBに認められている海外の作戦より広い裁量が与えられていた」と証言。昨年6月、プーチン前大統領と敵対して英国に亡命した政商ベレゾフスキー氏の暗殺を企てたとしてロンドン警視庁がロシア人の男を逮捕していたことも明らかにした。男は強制送還された。これもFSBの作戦という。

続きを読む: http://sankei.jp.msn.com/world/europe/080708/erp0807080812000-n1.htm

「リトビネンコ事件捜査は終了しない」英首相G8サミットで

(7/11 AFP)イギリスのブラウン首相は7月10日、G8サミットでのロシアのメドベージェフ大統領との会談で、リトビネンコ毒殺事件について、「捜査はまだ終了しない」と伝えたことを明らかにした。一方でこの会談のあとロシア外務省筋は<両国関係の正常化のために率直な話し合いがあった>とした。

 ブラウン首相は英下院で、「リトビネンコ事件の捜査は終了しないということを、明確にメドベージェフ氏に伝えた−イギリス領土において殺害されたのが誰であれ、われわれはそれを許すべきではない」と答弁。

つづきを読む: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080716/1216173159

「リトビネンコ事件はロシア政府に責任あり」イギリスの元高官が語る

(7/8 Daily Mail)7日夜に、ディム・ポーリーン・ネビル・ジョーンズ元イギリス合同情報委員長(JIC)は、リトビネンコの殺害犯がロシア政府であるという情報リークについて、「ロシアが罪を犯していないなどとは言えない」として支持した。

責任はクレムリンまで追及することになるかという記者の質問に対して、「そう考えます。(FSBなどは)国家のコントロール下にあるからです。もしFSBの犯行なら、つまりロシア政府の犯行だということです。われわれはごく一部のごろつき組織が、政府の手を離れて作戦をしたという見方はとりません」と答えた。

つづきを読む: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080710/1215678099

イベント情報

7/20 春日:G8サミットと秋葉原事件

かつて国策推進の担い手として動員された国民は、国民たらざる者を生み出し排除する運動でその自画像を描いた。サミットと秋葉原事件をつなぐものは何か。http://ankoku-mirai.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/7_8696.html

7/21 御茶ノ水:写真と歴史が語る隠されたチベット

チベット僧や市民の自由を求める声は止まない。この半世紀、チベット問題はなぜ隠され続けてきたのか。4人の専門家による、写真で視るチベット報告会 http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080623/1214207120

7/21 渋谷:マールイ・サーカスの一日

群馬県にある沢入国際サーカス学校の初めての東京公演。演じる若者たちのひたむきさと、見終わった後のすがすがしさは格別 http://www.circus-mura.net/marle_circus/marle_circus.html

7/21 国分寺:第3回エイサー祭り

エイサー・三線・歌で作ろう 命の輝き!命の保障! 沖縄物産販売やバザー、模擬店や体験教室なども。http://gkabudan.ivt.org/eisa_matsuri/20080721_kokubunji/pc/

8/2 早稲田:北京五輪直前シンポジウム 民主化リーダーたちが語る、中国の人権

徐文立、王丹が語る!民主化を訴えて投獄され、現在は海外で活躍する活動家たちが一同に集まり、中国の人権について語ります。http://www.amnesty.or.jp/modules/wfsection/article.php?articleid=1676

8/2 船橋:無実なのに獄中33年 今、生命を輝かせ 反戦を生きる星野文昭さんを自由に! 8.2ビデオ上映会

無実の罪で獄中にいる星野文昭さんのビデオを見る会 http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080718/1216351615

8/6 大森:『八月の蒼い空』−第7回公演 鈴鹿景子の読み語り

幼い瞳に映ったあの日の空も、蒼く澄んでいた・・・ 女優による「戦争童話集」の読み語り。戦争をしない国であるために。
http://www.oomorihojinkai.or.jp/index.asp?patten_cd=12&page_no=236

映画/写真展など

12人の怒れる男

養父殺しの罪に問われるチェチェン人少年。12人の陪審員は、激論の末真実にたどりつく。現代ロシアの真実を照らし出す衝撃の法廷劇 http://www.12-movie.com

『暗殺リトビネンコ事件』

リトビネンコはなぜ殺されなければならなかったのか?アンドレイ・ネクラーソフ監督による迫真のドキュメンタリ http://litvinenko-case.com/theater.html

おいしいコーヒーの真実

世界第三位のコーヒー消費国日本。あなたがスターバックスで支払ったコーヒー代はどこに行く?コーヒー好きの誰もが見るべき映画です http://www.uplink.co.jp/oishiicoffee/

『光州5.18』

韓国現代史や民主化運動に関心を持つきっかけに。1980年、韓国で起きた<光州の悲劇>を完全映画化 http://may18.jp/

パレスチナ1948 NAKBA』

パレスチナ人がNAKBA(大惨事)と呼ぶイスラエル建国の年に何が起こったのか? 広河隆一40年間の取材の集大成 http://nakba.jp/

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』

「革命」に、すべてを賭けたかった・・・。5人の若者たちがあさま山荘へと至る、激動の時代を若松孝二が描く! http://www.wakamatsukoji.org/

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