科学者を疑うことーー私たちの安全のために

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今日のトピックスイベント情報この日記の目的福島第一原子力発電所の状況使用済燃料プールの冷却大気を経由した汚染汚染水・海水を経由した汚染(海洋投棄)地下水を経由した汚染モニタリングデータ計画停電は何のため?重要情報のブックマーク

今日のトピックス 科学者を疑うことーー私たちの安全のために


福島県放射線健康リスク管理アドバイザー・山下俊一長崎県大学教授の講演と質疑応答の様子)


 おはようございます。

 政府が「パニックを起こさないために」情報を統制しているというのは、誰しもうすうす感じていることですよね。 しかし、パニックが起こるのは、むしろ政府や科学者の言うことが信じられなくなった時ではないかと思うのです。

 今日は二つの話題です。一つ目は、昨日行われた一号機原子炉の二重扉が開放された件です。

冷却装置設置へ二重扉開放 福島原発1号機 自治体や諸外国に通報 保安院「環境影響は小さい」

 東京電力は8日…原子炉建屋につながる二重扉を開放。…扉を開けると放射性物質が大気中へ漏れ出す恐れがある。…経済産業省原子力安全・保安院は「環境影響は小さい」と評価している。

 1号機は換気装置を使って原子炉建屋内の放射性物質を取り除いてきた。建屋内の空気が外部に漏れても「原発敷地内で測定されている濃度の1万分の1程度」(東電)という。 http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819595E2EAE2E29A8DE2EAE2E7E0E2E3E39F9FEAE2E2E2

 わりに、どの新聞を読んでもそうなのですが、記事としての要件を満たしていない記事が多く、情報量がまったくありません。この記事は、きつい言い方すれば、希望的観測に基づいた情緒的な作文です。これだけツッコミどころがあります。

    • 放出された放射性物質は数値としてどのくらいの量なのか? 
    • 環境への影響が少ない。ということは環境への影響はあるという意味だが、どんな影響があるのか?
    • 敷地内での濃度の1/10000というが、それは事故前の濃度なのか? 今の濃度なのか?
    • 換気装置を使って放射性物質を取り除いてきた=それは事前の放出という意味ではないのか?

 マスメディアの記事というのは、しばしば、こんなにテキトーなものだということを、頭の片隅に置いていただければと思います。

 さて次の問題です。

放射線の影響は、実はニコニコ笑ってる人には来ません。クヨクヨしてる人に来ます。これは明確な動物実験でわかっています。酒飲みの方が幸か不幸か、放射線の影響少ないんですね。決して飲めということではありませんよ。笑いが皆様方の放射線恐怖症を取り除きます。でも、その笑いを学問的に、科学的に説明しうるだけの情報の提供がいま非常に少ないんです http://ameblo.jp/kaiken-matome/entry-10839525483.html

 事故後に福島で行われた講演会で、こういうことを語った人がいます。事故後に福島県のアドバイザーになった、長崎大学の山下俊一教授です。

 また、教授は「100ミリシーベルトまでの放射線は安全です」という主張をしています。原子力利用の推進機関である放射線防護委員会(ICRP)でさえも、「放射線の影響には、これより低ければ発ガンや遺伝的影響はないという、『しきい値』はない」としているのにも関わらず。

 上にあげた言葉が、科学的な誠実さのあるものとは、お世辞にも言えません。

 誠実さというのは、数字を挙げることだけではないと思います。科学的知識のない人の素朴な質問に、言葉を噛み砕いて伝えることも、公的なアドバイザーの役目でしょう。ところが、山下教授はこういうやりとりをしているようです。

質問:(山下さんは)これまで、福島は安全です。安全ですと言い続けてきたが、将来、子どもたちに何か影響があった場合に、責任がもてますか?イエスかノーでお答えください。

山下:基本的に大切なことは、将来のことは誰も予知できないんですね。神様しかできないんです。彼の質問に答えるには、膨大な数の疫学調査がいるんです。起こった病気が放射線のせいかどうかを調査するには、福島県民全員の協力が必要となります。正しい診断をし、正しい経過を把握するには、何十年間も必要なんです。数年、5年、10年ではなかなかその結果はでない。そのレベルの話ですので残念ながら、今の質問にはイエスともノーとも答えられません。

 これは結局、専門用語で修飾した、はぐらかしでしかありません。また、自分の「安全」発言を検証する責任を、「福島県民全員の協力」にすり替えているのです。全体の様子は、our planet TVの記事をお読み下さい。 http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1037

 ちなみに、100ミリシーベルトどころか、20ミリシーベルト被爆でも、「科学者として」許すことができないとして、内閣参与の小佐古敏荘氏は辞任しました。 http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20110501/1304181894

 私たちのほとんどは科学者ではありませんが、バカではありません。政府や科学者の言うことを鵜呑みにしないことが、私たちの安全を確保する第一歩のようです。それは残念で、不幸なことですが。

 それではまた明日まで、お元気で。

イベント情報

 ぜひ、お近くで開かれる集会やデモにご参加ください。このところ、イベントが多すぎて(素晴らしい!)、追いきれなくなってきました。そこで、次のサイトをご参照ください。

http://newsfromsw19.seesaa.net/article/195072595.html
http://datugeninfo.web.fc2.com/

この日記の目的

 福島第一原発事故に関する情報を、手短にまとめる試みです。不正確な点がありましたら、どうぞメールなどでご指摘下さい。 editor@chechennews.org (情報提供もお受けしています)
 サイトの内容の引用やリンクはご自由にどうぞ。

福島第一原子力発電所の状況

 3号機の炉心温度がきわめて不安定な状態。5月1日から連続して炉心の温度が上昇している。プルトニウムの入ったプルサーマル燃料を使っており、制御しにくい上に、毒性の高いのが特徴。臨界になっているのではないか?

 4号機は地震当時、定期点検中だったため、もともと炉心に燃料がないが、建屋上部の使用済燃料プールには、大量の燃料が格納されている。燃料の崩壊熱を下げるために外部から注水を続けているが、水素爆発のためにプールは破損しており、冷却水が放射能汚染水となって漏出している。また、核分裂の際に発生するヨウ素131が汚染水から検出されていることから、臨界状態が発生しているという意見もある。つまり燃料プールが、原子炉化している可能性がある。

 1号機の炉心の7割以上が損壊しており、燃料の被覆管のジルコニウムなどから大量の水素が発生、水素爆発の危機が迫っている。

 さらに危険なのは、圧力容器内で溶融した炉心が水と接触して発生する水蒸気爆発である。そして、原子炉内部での再臨界の可能性も有識者から指摘され始めた。福島原発の危機的状況は、なお拡大している。

 放射性物質の大量の放出が続いている。全体の量は公開されていないようだが、爆発などが起こっておらず、比較的落ち着いていた4月5日の時点でも、一日あたり154兆ベクレルが放出されていたという報道がある。同量が事故発生後24日間放出されていたと仮定すると、3,696兆ベクレルは軽く放出されている。

 下表の通り、タービン建屋地下に高濃度の汚染水が流出した事実は、格納容器の破損を意味している。「柏崎刈羽原発の閉鎖を科学者・技術者の会」によれば、圧力容器の底部に溶融した燃料が到達し、底部の制御棒挿入部を壊して、吹き出している可能性が高い。

 「低レベル汚染水の放出」と呼ばれる、事前予告のない放射性物質の海洋投棄が続き、世界的な問題になりつつある。すでに中国、韓国、ロシアの政府とメディアからは批判が続出しており、大気へのベントも含めると、風下の北米圏からの批判が強まるのも時間の問題。

 原子炉にもともと設置されている冷却システムが復旧する可能性は極めて低い。格納容器への注水が即・放射性物質を含む漏水となっている現状を考えると、今後環境に排出される放射性物質の量は相当多くなるであろう。

     1号機 2号機 3号機 4号機
製造 1971年GE製 1974,GE,東芝 1976,東芝 1978,日立
空中写真
主な出来事 3/12 水素爆発(原子炉建屋) 3/15 水素爆発(圧力抑制プール) 3/14 水素爆発(原子炉建屋) 3/15 水素爆発(使用済燃料貯蔵プール)
原子炉 燃料400体。炉心溶融。圧力容器破損の疑い。温度低下、ノズル部で260度(上昇)。圧力容器への真水注入を中断、水素爆発防止のため窒素注入中。 燃料548体。炉心溶融。圧力容器破損。圧力抑制プール破損。真水注入中(!)。 温度急上昇中。燃料548体。炉心溶融。圧力容器破損の疑い。真水注入中 燃料なし
燃料の損傷率* 70% 30% 25% -
使用済燃料プール 使用済燃料292体、新燃料100体。水位、水温不明。注水中断 使用済燃料587体、新燃料28体。燃料破損の疑い。水位不明、水温(51度)。注水中 使用済燃料514体、新燃料52体。水位、水温不明。注水中 使用済燃料1331体、新燃料204体(!)。燃料棒の一部が破損。通常の100倍濃度の汚染水あり。水温90度前後。注水中。漏水あり
高濃度汚染水 2万5千トン。タービン建屋地下の汚染水は380万ベクレル/cc。核分裂生成物(死の灰)漏出か。複水器から貯蔵タンクへ移送中。 2万5千トン。取水口付近の汚染水はヨウ素131が210ベクレル/cc(法定限度の5300倍)。核分裂生成物漏出か。複水器から貯蔵タンクへ移送中。 2万2千トン。原子炉建屋地下に深さ5mの汚染水。タービン建屋地下の汚染水は390万ベクレル/cc。核分裂生成物漏出か 原子炉建屋地下で2万トン。。濃度も事故後に上昇を続けている。
その他 原子炉建屋内の温度40度、湿度94〜99%の蒸し風呂状態。放射線値不明。人間による内部での作業は極めて困難。 ウランとプルトニウムを混在させたMOX燃料を装荷。制御困難に陥りやすく、拡散した場合に毒性が最も高い。 もっとも多量の核燃料がプールに貯蔵されている。プールが高所にあるために、余震による倒壊が懸念されている。
主な出典
*4/7東電発表値を採用
東京新聞連載「福島第一原発の現状」、NewYorkTimes"Status of the Nuclear Reactors at the Fukushima Daiichi Power Plant"など
空中写真はPhotos of the Day - Fukushima Dai-ichi Aerialsより

使用済燃料プールの冷却

 すべて生コン圧送機で注水中。

大気を経由した汚染

参考図

ドイツ気象庁による放射性物質の飛散予想(むこう3日間)。放出源の濃度が分からないため、気候条件のみによる予想です。つまり、この期間のあいだにあり得るベントや爆発によって、放射性物質が放出した場合に、どのように拡散するかをシュミレートしたものなので、この図から直接、危険度を評価することはできません。くわしい説明はこちらを:"with eyes closed." by Kan Yamamoto http://www.witheyesclosed.net/post/4169481471/dwd0329

汚染水・海水を経由した汚染(海洋投棄)

 4月に入り、東電はタービン建屋で見つかった汚染水約1万トンを海洋投棄した。オリンピック規格のプール3杯分にあたる。汚染水のほとんどは、事故後の冷却作業による注水が、炉心と使用済燃料プールを経由して漏出しているため、冷却すればするほど、放出量も増加する。今も建屋に溜まっている水だけで6万トンにのぼる。

[http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819595E0E3E2E2938DE0E3E2E6E0E2E3E39F9FE2E2E2E2:title= また、2号機の取水口付近からの汚染水は、流出総量が推定で520トン、汚染水に含まれる放射性物質の量は4700兆ベクレル(4700テラベクテル)だった。]

「海はごみ捨て場じゃない」全魚連関係者が東電に抗議。http://www.asahi.com/national/update/0406/TKY201104060148.html

 今後、東北地方太平洋側の海洋は、かつてない規模の放射能汚染が続くと思われる。これについては、下記のフランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)が作成した図が参考になる。

 「原発はコストの低い電源であり、日本経済を支えている」といった主張は、急速に無意味なものになりつつある。むしろ、原発は極めてコストの高い災害をもたらし、日本経済にトドメを刺そうとしている」と考える段階に来ているのではないだろうか。

 政府と東電は「海水の放射能は拡散することで放射線量が減少するので影響は少ない」としているが、実は拡散した核種をプランクトンが吸い込み、それを魚が食べ・・・という形で、食物連鎖のなかで、蓄積されていく。そして高濃度に汚染された魚介類を、私たちが食べることになる。

 発電所の沖合い30キロの地点でも、ヨウ素131やセシウム137が観測されている。4月13日の厚労省の発表によれば、福島県いわき市沖・福島第一原発から35キロの地点で採取されたコウナゴから、1万2500ベクレル/kgの放射性セシウムを検出した。食品衛生法での暫定基準値の25倍。

 今後は、規制値の変更(緩和)にも注意が必要。

参考:汚染水の拡散予測(フランスIRSNによる)
http://fukurou.txt-nifty.com/fukurou/2011/04/irsn-b3b6.html

地下水を経由した汚染

 2号機周辺に設置された井戸から出た地下水の放射能濃度が、ここ1週間で17倍に増加している。ヨウ素131が1ccあたり610ベクレル。(4/15朝日 http://www.asahi.com/national/update/0414/TKY201104140463.html )

 冷温停止中の福島第一原発5、6号機の地下でも、低レベル汚染水をを検出。(4/3)

モニタリングデータ

 首相官邸のサイトより:放射線モニタリングデータ
http://www.kantei.go.jp/saigai/monitoring/index.html

計画停電は何のため?

 今月で計画停電が終了の見込みなので、この項目は過去ログに入れました。
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20110407/1302151867#keikakuteiden

参考文献と、重要情報のブックマーク

原子力資料情報室 http://cnic.jp/
福島原発事故情報共同デスク http://2011shinsai.info/
福島原発震災」をどう見るか―私たちの見解(その1)http://kk-heisa.com/data/2011-03-23_kkkenkai.pdf (『柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会』)
福島原発震災」をどう見るか―私たちの見解(その2) http://kk-heisa.com/data/2011-04-07_kkkenkai2.pdf (〃)
全国の放射能濃度一覧 http://atmc.jp/
小出裕章 (京大助教) 非公式まとめ 京都大学原子炉実験所助教 小出裕章氏の情報発信 http://hiroakikoide.wordpress.com/
参考資料  マニュアルどおりにならない原発事故対応 〜パニックに陥らず、正確な情報で行動しよう http://d.hatena.ne.jp/chechen/20110325/1301023227
「社会情報リテラシー講義:福島原発事故をめぐる「安全」報道を考える」

    1. 第1回 「科学」「安全」「安心」:問題を整理する http://researchmap.jp/jowricset-111/#_111
    2. 第2回 基準と単位を整理する http://researchmap.jp/jo6nkzpvy-111/#_111
    3. 第3回 数値を確認する http://researchmap.jp/jo7wxgftu-111/#_111
    4. 第4回 事後と事前:安心と安全の境 http://researchmap.jp/joge2by5g-111/#_111
    5. 第5回 比べること:安心と安全の境(2) http://researchmap.jp/joxfh3rfa-111/#_111
    6. 第6回 冷静と混乱のあいだ http://researchmap.jp/joq9cru43-111/#_111
    7. 第7回 「安全」の視点から情報と対応を検討する http://researchmap.jp/jo46bzfzc-111/#_111
    8. ベクレルとシーベルトの変換 http://panflute.p.u-tokyo.ac.jp/~kyo/dose/

<電力の将来>スペインの風力発電、最大の電力源に成長 http://newsfromsw19.seesaa.net/article/195003319.html
流言・デマによるパニックを心配して情報を伏せている方々へ 静岡大学防災総合センター教授 小山真人 http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/etc/riskcom.html
ISEP: 3.11後のエネルギー戦略ペーパー:無計画停電から戦略的エネルギーシフトへ http://www.isep.or.jp/images/press/ISEP_Strategy110404.pdf
日本の加害者化 ーー対岸から火事を眺めて http://newsfromsw19.seesaa.net/article/194703247.html
福島原発震災(38)】フランスIRSNが海洋汚染のシュミレーション結果を発表 http://fukurou.txt-nifty.com/fukurou/2011/04/irsn-b3b6.html
http://sirocco.omp.obs-mip.fr/outils/Symphonie/Produits/Japan/SymphoniePreviJapan.htm
気象庁IAEAの要請をもとにつくったシミュレーション http://www.jma.go.jp/jma/kokusai/eer_list.html
放射能漏れに対する個人対策(第3版) http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html

読み物系ブックマーク

弱い文明 http://blog.goo.ne.jp/civil_faible/
よこぜログ http://yokoze.cocolog-nifty.com/blog/
ホンマタイムス http://honmaya.exblog.jp/

(以上のまとめ:大富亮)