コムソモール復活?“プーチン親衛隊”「ナーシ」台頭

 10月30日の産経新聞の記事より。
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071030-00000077-san-int

反政権派を駆逐/暴力行為に懸念

 【モスクワ=遠藤良介】12月初頭の議会選と来春の大統領選を控えるロシアで、プーチン大統領を崇拝する“プーチン親衛隊”といえる官製青少年団体の動きが活発化している。「ナーシ」(我らの)と呼ばれるこの団体は、選挙に向け反政権派を駆逐し、選挙期間中は警察権力と協力する方針で、選挙の公正さに早くも影を落としている。政権は、ソ連時代の「コムソモール」(共産主義青年組織)に似た、イデオロギー組織を操る危険なゲームに乗り出したようだ。
 このところ毎週末、モスクワ河岸の広場には大型観光バスが数十台連なり、地方都市から動員された10〜20代の若者ら約1500人が扇動訓練を受けている。官製青少年団体「ナーシ」のメンバーである。若者らは「強いロシアを」と気勢を上げた後、市内に繰り出して通行人の支持を取り付けるなど「政治ラリー・ゲーム」を競う。
 団体幹部の一人は「これは反政権派の(集会)殲滅(せんめつ)と有権者の扇動に向けた訓練だ」と話し、「12月の議会選期間中、われわれは約10万人を動員してモスクワをコントロールする」と宣言した。選挙期間中には大規模なテント村を設営するほか、モスクワ市警との間では、警察官と協力し“パトロール”を行うことで合意しているという。
 ナーシは2005年4月、大統領府のスルコフ副長官の肝いりで創設された。03年末にグルジアで「バラ革命」、04年末にはウクライナで「オレンジ革命」と、隣国で若年勢力を主体とする街頭行動が起きたことにプーチン政権は強烈な危機感を覚え、反政権派への対抗勢力をつくったのだ。
 各地に広がる組織や資金には不明な点が多い。幹部候補である「委員」は約3000人、「活動家」は約1万人とみられる。政権は資金援助を否定するが、関係者は、国営天然ガス企業のガスプロムや政権に近い新興財閥から巨額の資金援助を受けていると言明した。
 ナーシは「反ファシズム」という不可解なイデオロギーを掲げてプーチン大統領を崇拝、反政権派をことごとく「ファシスト」と敵視する。リーダーのボロビコフ連邦委員(26)は「ファシストによる革命を阻止してプーチン路線が継承されるべく、議会選で与党が勝利するよう全力を尽くす」と話す。
 ナーシの動員力の背景には潤沢な資金力が指摘されているが、政権派の政治評論家、ダニーリン氏は「ロシアは若い国家であり、若者が迅速な出世の手段を求めていることも見逃せない」と指摘する。ナーシ幹部は大統領や側近との“謁見(えっけん)”を認められるし、ナーシは大国営企業や官庁での研修を通じ「将来の人材供給源としての機能」(幹部)も担い始めているのだ。
 ソ連時代、共産党による一党独裁下ではピオネール(10〜15歳)▽コムソモール(14〜28歳)▽党員−という“人材育成”の階段があった。あるナーシ幹部は自らの組織を「現代版コムソモールだ」と言ってはばからない。実際、プーチン大統領は先月、若者のイデオロギー教育を担当する「青少年担当国家委員会」を創設し、委員長にナーシ前リーダーを任命しており、ナーシは同委員会の“中核部隊”になるものとみられる。
 だが、ナーシをめぐっては、暴力的な行動が諸外国から問題視されてきた。06年夏以降は反政権派の会合に出席した駐露英大使に半年以上もつきまとって激しく公務を妨害。今春には隣国エストニア旧ソ連軍の銅像を移転したことに激怒し、1週間以上にわたり同国大使館前を占拠した。反プーチン政権派に対する複数の襲撃事件への関与も指摘されている。
 シンクタンク「社会調査基金」のヤコベンコ所長は、ナーシを利用する政権について「犬と同じく従順なうちはよいが、プーチン大統領の退任後、潤沢な資金が途絶えれば制御が効かなくなる危険もある」と指摘する。「反欧米的な価値観で洗脳された『プーチン世代』の増殖は、将来的にロシアの対外関係にも影響を及ぼすだろう」(民主派政党幹部)との懸念もある。