司法改革の行方

2007年10月24日 ラジオ・リバティ
クレール・ビッグ

 ロシア大統領ウラジーミル・プーチンは、ロシア最高裁判所のヴャチェスラフ・レベジェフ長官をクレムリンに招いて、10月初旬にテレビ会見を行った。
 プーチンとレベジェフは、基本的な法的権利と人権が侵害されている状況を改善するために、ロシアの司法制度を改革することに同意した。彼らがいうには、そうした改革によって、ロシアからの申請で埋めつくされている欧州人権裁判所の負担を軽減できるという。
 「欧州人権裁判所への訴訟は、二種類の犯罪に関するものである。それは、違法な拘束状態と司法手続きの違反に関するものだ」と、ロシア最高裁判所のパヴェル・オディンツォフ広報官は、ラジオ・リバティに対して語った。「最高裁判所の幹部会が、国内の司法システムでこの問題に最も深く関与するのが妥当だろう。これによって裁判所の業務も単純化される」
 改革案は、最高裁判所幹部会が、人権侵害や司法手続きの違反についての事件により関与し、かつ裁判を迅速化するというものである。提案は現在最高裁判所がまとめているところで、大統領が署名をする前に議会で採択されなければならない。
 けれども、人権派弁護士は、改革案に疑惑の目を向けている。「基本的に、ロシア市民が自国内で必要な法的支援を得られるなら、何も反対する理由はありません」と、著名なロシア人弁護士であるユーリ・シュミットは言う。「ですが、最近では司法と当局は完全に癒着しています。司法(正義)と呼ぶのもおこがましいかもしれません。こうした領域で行われる改革が効果をもたらすなどと信じるわけにはいきません」
 欧州人権裁判所が頻繁にロシア政府を非難していることが―シュミットいわくクレムリンに「ひどい不快」を与える現象―が、改革案が出されてきた本当の理由ではないかとシュミットは見る。
 やはり著名なロシア人権派弁護士であるマラ・ポーリャコワも、同様の見解を示している。「ロシアの裁判所は、[欧州人権裁判所によって]判決を覆されるのを嫌います。だから司法システムを改革しようと言い出してきたというのが本当のところでしょう。改革案はまったくもって胡散くさいものだと思います。この国の判事がどんな人間たちか、彼らがどんな精神構造をしているか、私は身を持って知っているのですから。改革によって人権が遵守されるようになるとはとても思えません」

正義はストラスブールから

 ロシアから数千キロも離れたフランスのストラスブールにある裁判所が、ロシア当局に対して最も強力なチェック機能を果たす機関の一つになってきているというのは、奇妙な感じがするかもしれない。けれども、ロシアの司法が弛緩し、依然として権利の侵害がやまない状況では、ますます多くのロシア市民が最後の望みをかけて欧州人権裁判所に提訴するようになっている。
 2006年、欧州人権裁判所に提訴したロシア市民の数は1万2000人に及ぶ――これは欧州評議会の47加盟国から申請されたすべてのケースの五分の一に当たる。
 予期されていたように、ストラスブールからは容赦のない有罪判決が続き、モスクワは面子を潰された。ロシア当局を特にうんざりさせているのは、ロシア軍によるチェチェンでの蛮行をロシア政府に認めさせようとする判決である。プーチンもセルゲイ・ラヴロフ外相も、欧州人権裁判所が明らかにロシアに対して「政治的」な判決を下しているとして非難している。
 9月、プーチンは、法務省がロシア政府代表部と協働するために5人を欧州評議会に送り、ロシアの代表を欧州人権裁判所に送ることを許可する法律に署名した。
 ロシア憲法裁判所長官のワレリー・ゾリキンは、7月、ロシア市民が自国内で可能なあらゆる法的手続きを取ることなく欧州人権裁判所に訴えることを禁止する法が必要であると述べた。ゾリキンの発言は、元チェチェン議会議員のルスラン・アリハジエフが殺害された責任をロシア政府に問い、慰謝料として4万ユーロ(5万7230ドル)をアリハジエフの母親に支払うよう命じた判決の数日後に行われた。
 最高裁判所のオディンツォフ広報官は、改革案は、ロシア市民が直接ストラスブールに訴えたり、ロシアでの裁判が行えなかった場合にストラスブールに訴える権利を侵害するものではないと主張する。
 ロシアは、近年―欧州人権裁判所の要求に応えて審理前の拘禁所や刑務所の状況を改善させるなど―欧州人権裁判所をいくらか尊重する素振りを見せている。ただし、ロシア当局は、それ以上に欧州人権裁判所に従わないときの方が多い。
 「一方、ロシアはつねに欧州人権裁判所の要求通り賠償金を支払ってきました」と、ロンドンのバークベック大学の国際人権法のビル・ボーリング教授は述べる。「ですが、話が違法行為―不適切だった調査の再開や、犯罪を犯したことが明らかな政府関係者の取り調べ、実質的な法の改正―に及ぶと、ロシアはまったく従おうとしません」

改革を妨害するモスクワ

 他の人権問題専門家と同様に、ボーリングも、ロシアが欧州人権条約の第14議定書―申請手続きを迅速化するための文書―を批准しようとしない以上、司法手続きを改善し、欧州人権裁判所の負担を減らそうという言い分には説得力がないと主張する。
 「当初から欧州裁判所にいたロシアの代表は最近解雇され、新しくキャリア検察官のミリンチュク氏が任命されました」と、多くのロシア市民のストラスブールへの訴訟を支援してきたボーリングは言う。「これはロシア政府が欧州裁判所の代表の質を上げようとして取った措置の一つだと思います。ですが、欧州人権裁判所の改革を妨害している唯一の国であるロシアが、『我々は自国で改革をする』と言い出すのは、極めて不愉快な態度だと思います」
 2月、欧州評議会議員総会(PACE)は、欧州人権裁判所に最も非協力的な二国として、ロシアとトルコを名指しで批判する報告書を発行した。報告書には、特にチェチェンで、嫌がらせや弾圧、原告や弁護士に対する脅迫が頻繁に起こっていることが記録されている。
 ボーリング自身、新聞の編集長だったスタニスラフ・ドミトリエフスキーの裁判を傍聴していた2005年11月に、ロシアから追放されたのだった。ドミトリエフスキーは、チェチェン独立派の文書を出版した後に、民族・人種・宗教間の憎悪を煽動したという罪で有罪判決を受けていた。ドミトリエフスキーはその後2年の執行猶予刑を下された。問題とされた新聞は、チェチェンにおける人権侵害を監視し、チェチェン人がロシア政府を相手に欧州人権裁判所に提訴するのを支援していたロシア・チェチェン友好協会が発行していた。
 ボーリングは、自分が追放された理由に関して十人以上のロシア政府関係者から公式な説明を求めたが、帰国するための半券は最後まで没収されたままだった。
 1年後、ロシア裁判所はロシア・チェチェン友好協会を閉鎖した。判決は、「過激派」活動家として有罪判決を受けた人物がNGOの代表を務めることは許されない、というものだった。

原文: http://www.rferl.org/featuresarticle/2007/10/9ad2e375-39ee-4dec-94ef-71ae55136493.html