チェチェンニュース Vol.08 No.16 2008.12.28

発行部数:1601部

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今年最後のチェチェンニュースをお送りします。ひとつは、あまり嬉しいニュースではないのですが、チェチェンの少女絞殺犯のブダーノフが釈放されそう、というものです。

 今日のニュースでは、パレスチナガザ地区イスラエル軍の大規模な攻撃があり、200人近い人が亡くなりました。もうひとつの記事は、チェチェンに直接の関係はないのですが、最近読んだパレスチナの本などの紹介です。

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INDEX

* 少女絞殺犯のブダーノフ大佐、釈放へ!
* 本の紹介  パレスチナ、ロシア語、英語
* イベント情報

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■少女絞殺犯のブダーノフ大佐、釈放へ!  (大富亮/チェチェンニュース)


 よりによってクリスマスイブに入ってきたひどいニュース。2000年に、チェチェンで18歳のエリザ・クンガーエワさんを強姦・絞殺して、2003年に10年の実刑判決を受けて受刑中だった元戦車連隊のブダーノフ大佐が、「深く反省している」ために、刑期途中で釈放されることになった。これは、刑務所のあるウリヤノフスクの裁判所の決定によるもので、軍の執拗な釈放要求の結果だと思う。

 この事件については、アンナ・ポリトコフスカヤの「チェチェン やめられない戦争」と、「プーチニズム 報道されないロシアの現実」(ともにNHK出版)に詳しい。かいつまんで経緯をまとめると、ブダーノフは駐屯地のあったタンギ・チェ村の娘エリザに前から目をつけていて、酔って部下とともに装甲車で村に「掃討作戦」に出向き、家族の目の前で彼女を拘束して、基地の自分のテントに連れ込んだ。

 ブダーノフは彼女を、武装勢力の「狙撃手」だと信じていたといい、その尋問の最中に「一時的に精神錯乱に陥って」絞殺したので、罪は軽いと主張した。この「精神錯乱」については、ソ連時代に民主派の活動家たちに次々と精神疾患の診断書を書いては精神病院に送り込んだ、悪名高いタマーラ・ペチェルニコーワ医師が鑑定委員として関わっている。診断書を書いたのが彼女だ。

 チェチェンでは、今回の釈放の報せに人びとが怒り、1000人規模の抗議集会を公然とグロズヌイで開いた(ということは、現地の傀儡カディロフ政権は、この集会を認めていることになる)。また、クンガーエワさんの家族はノルウェーで難民生活を送っているが、これまで何度もブダーノフに復讐をほのめかされてきたので、父親は「絶対にチェチェンに戻らない」とインターファックスの記者に語っている。

 クンガーエワさんの事件は、氷山の一角にすぎない。チェチェンでは、同じような事件が無数に起こっていて、粘り強い法廷での闘いを続けてきたために、2003年の有罪判決があった。父親のクンガーエフさんは「欧州人権裁判所に訴えたい」と考えているという。

 ブダーノフは、1月3日までに釈放されることになっている。

 関係記事いくつか:
 http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20081227/

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■本の紹介  パレスチナ、ロシア語、英語

 年末です。もう休みに入られた方も多いかと思います。せっかくの休みですから、ぜひ書店や図書館に行って、本をさがしてみてください。今年読んだ本の中から紹介します。(大富)


 ●『占領ノート 一ユダヤ人が見たパレスチナの生活』
   エリック・アザン著 益岡賢訳 現代企画室(1,500円)

 今日、12月28日の新聞によると「イスラム原理主義組織」ハマスが実効支配するガザを、イスラエル軍が攻撃している。抵抗勢力による、ガザからのミサイル攻撃が続いているからだとか。私は、いつもパレスチナからのニュースをどう読んだらいいのかわからない。それで、この本をめくり始めた。

 この本は、ユダヤ系フランス人の医師/編集者のアザンが、ヨルダン川西岸に1ヶ月間滞在し、淡々と、土地の様子を観察し、人々から話を聞いて歩いた記録だ。著者の考えを声高に主張する本ではない。この本独特のゆっくりとしたテンポは、分離壁に閉ざされ、はてしない迂回を余儀なくされる灼熱の土地の旅だったからだろうか。

 ナブルス、カルキリヤ、ヘブロン・・・土地の政治家にも、工場主にも、若いラジオのコーディネーターにも、それぞれ伝えたいことがある。この本を読み終わって、私もそれに近いことを思った。「理不尽」な目にはいやというほど遭っている。オスロ合意の後で、自治政府はそれ自体がパレスチナ人への弾圧の道具になってしまった。人びとを分断し、労働の場所を奪う分離壁、豊富な水資源を奪ってゆく入植者たちを前にして、人びとはもうパレスチナの独立を信じることをやめたのが、どうしても伝わってくる。

 パレスチナの声が聞こえないのはどうしてかという著者の質問に、ある人はこう答える。「私たちのレジスタンスに政治がないからだ。オスロ合意の前は、武装抵抗と政治が手に手をとって進んでいたので、世界は私たちの主張を理解した。今は、イスラエルアメリカどころか、アラブ諸国パレスチナの指導者たちすら、私たちに敵対している」この言葉は今のチェチェンにも通じるものがある。

 「二国家解決」は結局、イスラエルパレスチナを奪うための方便にすぎなかったとはいえ、ここに登場する人びとはユダヤ人たちとの共存に疑いを抱いているわけではない。その先に構想されている未来に思いを馳せることができるのは、この「ノート」が、著者だけでなく、巻末の充実した解説に支えられているからだ。

 苦しみつつ、答えを選び取ろうとしている人びとの息づかいが聞こえてくる。パレスチナの今をできるだけリアルに感じたい人に、ぜひ読んでほしい。

 なお、ガザ地区については、この本の解説を担当したビー・カミムーラさんの「P-navi info」に「もし東京がガザだったら……」という面白い記事があるので、これを読むと実感が沸いてくるかもしれない。

  http://0000000000.net/p-navi/info/column/200410161947.htm

  <! このメールの巻末に、ガザからの緊急メールを転載します !>


 ●『無勝手流ロシア語通訳――ジグザグ道をまっしぐら』三浦みどり
   東洋書店ユーラシアブックレットNo.126 (600円)

 独特の節回しで語られる、著者の大学時代、会社員時代、そして通訳としての修行と独立。あるところで読んだすごく分厚いインタビュー集の著者の言葉と、三浦さんの言葉に感じる共通点は、ともに言葉を研いでは使い、また研ぐことの繰り返しを経た「言葉の仕事人」の迫力を文に感じることだ。

 ロシア語に出会い、通訳という天職を得たうれしさのあふれる前半から、じょじょに大きな仕事を任せられ、時には精神的に追い詰められながらも、人脈を大事にして生き抜いてきた日々が、親しみやすい語り口で書かれている。

 半年だけ通った大学は学園紛争で勉強どころでなくなり、それ以来三浦さんは独学の人になってロシア語のプロになった。大きな権力と闘って小さな勝利を獲得するには、なにより情報を融通しあうことが、自分も他者も救うことになるというメッセージを行間に感じさせる、したたかな一冊。


 ●『もう海外旅行で泣き寝入りしない!稲垣收の闘魂イングリッシュ 旅行編』
   稲垣收著 Jリサーチ出版(1,000円)

 語学つながりでもう一冊。チェチェン問題についての記事を何度も書いているジャーナリストの稲垣さんが、書名の通り<闘魂>で繰り出す英会話の数々。値切る、空港で行方不明になった荷物の行方を突き止める、外国の街で付きまとう相手を追い払う! 1000個近い怒涛の会話例で、トラブルになりそうなシチュエーションを網羅。ロシア、アメリカ、グルジア、タイと、世界中を旅行する著者ならではの型破りな語学書

 他にも、いろいろないい本に出会った1年でした。紹介しきれない本もたくさんあるのですが、また時期をみて掲載していきたいと思います。今年もありがとうございました。

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■イベント情報

  パレスチナイスラエルのイベント情報は「アル・ガド」をご覧下さい。
http://d.hatena.ne.jp/al-ghad/

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 ●1/17,18 新橋:アムネスティ・フィルム・フェスティバル
                   (『アンナへの手紙』上映あり)
  今日、映画を観る自由があった。
  私たちが当たり前に思っていることさえかなわない人々がいる。
  その人々のことを知ろう。

http://www.amnesty.or.jp?aff09


●1/8 春日:広河隆一アーカイブス・パレスチナ1948NAKBA 完成報告と試写会

イスラエル建国=パレスチナ人のナクバ(大惨事)から、60年。
ついに完成した決定版アーカイブス。序章を公開。

http://www.daysjapan.net/event/event081024_01.html



● 1/10 大阪:世界から見た死刑執行をやめない日本
〜国連自由権規約委員会・日本の人権状況審査の報告〜

10月中旬にジュネーブの国連欧州本部で開かれた、
自由権規約委員会による日本政府報告書審査の報告を通じて、
日本の人権状況や死刑制度について考える。

http://www.amnesty.or.jp/modules/piCal/index.php?action=View&event_id=0000002051


● 1/24 高田馬場:蓮池透講演会 何が拉致問題の解決を阻んでいるのか
マスメディアと日本政府、救う会、家族会の功罪を問う

暗礁に乗り上げる拉致問題の解決。
過去の清算も含めた交渉のあり方とは?

http://apc.cup.com/

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■映画・写真展など


●渋谷:『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

孫へのまなざし 平和への祈り ロシアの見たチェチェン

http://www.chechen.jp/


 ●『ビリン・闘いの村』

パレスチナ暫定自治区ヨルダン川西岸のビリン村。
若者たちは非暴力の闘いに立ち上がった。

http://www.hamsafilms.com/bilin/


 ●『おいしいコーヒーの真実

世界第三位のコーヒー消費国日本。
あなたがスターバックスで支払ったコーヒー代はどこに行く?
コーヒー好きの誰もが見るべき映画です

http://www.uplink.co.jp/oishiicoffee/

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2008.12.28 ガザからの緊急メール
http://0000000000.net/p-navi/info/news/200812281315.htm

 ガザ爆撃の死者は228人以上になると最新のニュースは報じています(28日午前)。昨日に引き続き、イスラエルによる空爆は行われているとはロイターの報道。昨夜、このガザから世界に向けて出されたメールを転載します。書き手はガザ・アル=アズハル大のアブデルワーヘド教授。岡真理さんが翻訳してくれました。転送歓迎です。

●ガザより

25の建物がイスラエルに空から攻撃された。建物はすべて地上レベルに崩れ去った。死者はすでに250名に達する。負傷者は何百人にものぼるが貧弱な設備しかないガザの病院では、彼らは行き場もない。電気も来ないが、ディーゼル発電機でなんとかこれを書いている。世界にメッセージを送るために。携帯電話もすべて使用できない!

●ガザより2 27日午後6時

なんという光景だ。数分前、パレスチナ側のカッサーム・ロケットが飛んでいく音が聞こえた。続いて、もう一つ、そして爆発音。2発目は、パレスチナ人を標的にしていたイスラエルの機体から爆撃されたものと思われる。今、聴いたニュースによれば、イスラエルのアパッチ・ヘリが攻撃したのは、釣堀用の池のあるリクリエーション・グラウンドだという。シファー病院は、195人の遺体、570人の負傷者が同病院に運ばれていると声明を発表している。刻一刻と死傷者の数は増え続けている。これはガザ市だけの数字だ。ほかの町や村、難民キャンプからの公式の発表はない。自宅アパートの近くで末息子がスクール・バスを待っていたところ、以前、国境警備局があったところが攻撃された。息子が立っていたところから50メートルしか離れていないところで、男性二人と少女二人が即死した!真っ暗な夜だ。小さな発電機を動かして、ネットを通じて世界と交信している。

●ガザより3 27日午後8時

今宵、ガザの誰もが恐怖におびえている。完全な暗闇。子どもたちは恐怖から泣いている。死者は206人。遺体はシファー病院の床の上に横たえられている。負傷者は575名をうわまわるが、同病院の設備は貧弱だ。病院事務局は市民に輸血を要請している。教員組合は虐殺に抗議し3日間のストライキを決
定。イスラエルの機体がガザ市東部を爆撃、大勢の人々が死傷した。犠牲者の数は増え続けている。瓦礫の下敷きになっている人々もいる。一人の女性は二人の幼い娘と一人の息子を亡くした。彼らは通学途中だった!

●ガザより3 27日午後11時

11:00pm。イスラエルのF16型戦闘機による、複数回にわたる新たな爆撃。ガザでは3つのテレビ局を視聴できるが、これは電力をなんとか確保できた場合の話だ。空爆はガザ市東部に集中。ある女性は10人の家族を失った。生き残ったのは彼女と娘一人だけだ。娘はメディアに向かって、何も語ることができなかった。何が起こったのか見当がつかない、と彼女は言う。町のいたるところでパニックが起きている。最悪の事態が起こるのではないかとみな、恐れている。エジプト、ヨルダン、レバノンで、この残虐な空爆に対するデモが行われた。死者数は、219以上にのぼる。225という説もある。

●ガザより4 空爆下、冷たく暗闇のなかで

今晩、爆破のせいで窓ガラスが砕け散った家庭にとっては冷たい夜だ。ガザの封鎖のため、窓ガラスが割れても、新たなガラスは手に入らない。私が居住するビルでは、7つのアパートが、凍てつく夜をいく晩もそうした状態で過ごしている。彼らは割れた窓をなんとか毛布で覆っている。何百軒もの家々が同じ境遇に置かれているのだ!私に言えることはそれくらいだ。他方、ハニーエ氏は地元テレビでハマースについて話をした。彼の話は、士気を高め、ハマースは屈服しないということを再確認するものだった。死者の数は210に、重傷を負った者もも200人に達した。今また、ガザの北部で新たな爆撃が!

●ガザより5 ガザに対するイスラエルの攻撃を中止させる行動を!

今、10分のあいだに5回の空爆。標的は人口密集地域の協会や社会活動グループ。モスクもひとつやられた。もう30時間、電気が来ない。なんとか小さな発電機でこらえている。インターネットで世界に発信するためだ。

●ガザより6 イスラエルから脅迫電話が!!

今しがた、イスラエルから何者かが電話してきた。末息子が応答したが、電話の主は、私が武器を所有しているなら、住まいを攻撃すると脅しをかけてきた。

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