被爆許容量引き上げの動きに注意を!

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今日のトピックス 被爆許容量引き上げの動きに注意を!

 おはようございます。
 数字の苦手な私ですが、ついに放射線量について考えてみたいと思います。というのも、次のような記事を目にしてしまったからです。

校庭活動に放射線基準…文科省福島県に提示へ(読売新聞4/10)
 文部科学省は、校庭など、幼稚園や学校の屋外で子供が活動する際の放射線量の基準を近く福島県に示す方針を固めた。同県内では、一部の学校で比較的高い濃度の放射線量や放射性物質が検出されており、体育など屋外活動の実施可否について早期に基準を示す必要があると判断した。
 同省などによると、基準は、児童生徒の年間被曝許容量を20ミリ・シーベルト(2万マイクロ・シーベルト)として、一般的な校庭の使用時間などを勘案して算定する方針。

 この記事の意味するところは何だろう? そこで計算してみました。

 まず、国際放射線防護委員会(ICRP)によると、自然放射線(日本では1.0〜1.5ミリシーベルト程度と言われています)以外で人々が平時に受ける線量の限度は、1年間 1ミリシーベルト(mSv)です。この記事に書かれているのは、学校を運営する上で、この20倍の放射線までなら、被爆してもよいという、新しいルールです。

 ICRPの「線形しきい値なし(LNT)モデル」では、1ミリシーベルト被爆するごとに、ガンになる確率が、0.0001増えます。1人の人間が、1ミリシーベルト放射線を1年間受けた後でガンになる確率は、0.01%ある、ということです。これを、人間の集団に対してあてはめてみますと、およそ10,000人に1人が、さきざきガンを発症するという計算になります。

 この記事の通り、年間被爆限度量が20倍に引き上げられたとして、20ミリシーベルト/年の地域に1年間居住すると、単純計算して、500人に1人が、のちにガンを発症するリスクを負います。小学校6年間が過ぎると、83人に1人はガンを発症するリスクを負います。だんだん、身近な話になってきてしまいました。

 さらに、子どもたちはより放射能の多い校庭・公園の砂や土の舞い上がる中で遊びますし、呼吸器も低いところにありますから、その点で大人より高い外部/内部被爆をします。とくに、内部被爆についてはメカニズムがよくわかっていない部分も多く、影響はより大きいと考えておいた方が(危険側で考えた方が)、無難でしょう。

 ところで福島では、学校施設での放射線量がかなり高いのです。たとえば、福島のある小学校では、4月5日に、4.9マイクロシーベルト/時を計測しています。年間にすると、42ミリシーベルト/年です。平時の基準の42倍。ICRPが勧告する緊急時の対応基準は年間20ミリシーベルトですから、まだその範囲内ではありますが。(福島県放射線モニタリング小・中学校等実施結果 http://www.pref.fukushima.jp/j/schoolmonitamatome.pdf )(また、ホームレスの人々を除けば、住居の中での放射線量は一般に半分以下になりますから、そういった補正は必要です)

 しかし緊急時ということは、「やむをえない場合」という意味でもあります。適切な避難指示によって子どもたちを優先的に避難させれば、こうした被爆の可能性のある場所であえて勉強をさせたり、遊ばせなくてすみます。ですから今は、原発周辺地域の避難範囲の拡大や、せめて子どもたち、先生たちに限った「疎開」が必要な段階であることが、上記の新聞記事と、モニタリングの結果から類推できます。

 なにより、「避難はさせない・させたくない」から基準を引き上げるというのは、その結論のために子どもたちを危険にさらす、本末転倒な話だということを、よく理解しておきたいと思います。

 今日のトピックスは、影浦峡さんの下記の講義と、l_w_fメーリングリストの皆様の議論を参考にしました。それではまた明日まで、お元気で。

 追記:計算をやさしくするため、LNTモデルの係数を0.000073から、0.0001に変更しました。

「社会情報リテラシー講義:福島原発事故をめぐる「安全」報道を考える」

    1. 第1回 「科学」「安全」「安心」:問題を整理する http://researchmap.jp/jowricset-111/#_111
    2. 第2回 基準と単位を整理する http://researchmap.jp/jo6nkzpvy-111/#_111

この日記の目的

 福島第一原発事故に関する情報を、手短にまとめる試みです。不正確な点がありましたら、どうぞメールなどでご指摘下さい。 editor@chechennews.org (情報提供もお受けしています)
 サイトの内容の引用やリンクはご自由にどうぞ。

福島第一原子力発電所の状況

 1号機の炉心の7割以上が損壊しており、燃料の被覆管のジルコニウムなどから大量の水素が発生、水素爆発の危機が迫っている。格納容器に窒素を注入して水素爆発を防ごうとしているが、効果は不明。

 水素爆発より危険なのは、圧力容器内で溶融した炉心が水と接触して発生する水蒸気爆発。そして、原子炉内部での再臨界の可能性も有識者から指摘され始めた。福島原発の危機的状況は、なお拡大している。 http://newsfromsw19.seesaa.net/article/194947897.html

 「低レベル汚染水の放出」と呼ばれる、事前予告のない放射性物質の海洋投棄が続き、世界的な問題になりつつある。すでに中国、韓国、ロシアの政府とメディアからは批判が続出しており、大気へのベントも含めると、風下の北米圏からの批判が強まるのも時間の問題。

 原子炉にもともと設置されている冷却システムは依然として復旧しておらず、原子炉・使用済燃料プールの温度・水位のほとんどはデータさえ取れていない(または発表されていない)。

     1号機 2号機 3号機 4号機
製造 1971年GE製 1974,GE,東芝 1976,東芝 1978,日立
空中写真
主な出来事 3/12 水素爆発(原子炉建屋) 3/15 水素爆発(圧力抑制プール) 3/14 水素爆発(原子炉建屋) 3/15 水素爆発(使用済燃料貯蔵プール)
原子炉 燃料400体。炉心溶融。圧力容器破損の疑い。温度低下、ノズル部で260度(上昇)。圧力容器への真水注入を中断、水素爆発防止のため窒素注入 燃料548体。炉心溶融。圧力容器破損。圧力抑制プール破損。真水注入中(!)。 燃料548体。炉心溶融。圧力容器破損の疑い。真水注入中 燃料なし
燃料の損傷率* 70% 30% 25% -
使用済燃料プール 燃料292体。水位、水温不明。注水中断 燃料587体。水位不明、水温(51度)。注水中 燃料514体。水位、水温不明。注水中 燃料1331体(!)。水位、温度不明。注水中
高濃度汚染水 放射能値1000倍(炉心冷却水との比較)。複水器から貯蔵タンクへ移送中。取水口付近で1万9000ベクレル 放射能値10万倍(同)。複水器から貯蔵タンクへ移送中。取水口付近の汚染水(放射線量は1シーベルト毎時、30万ベクレル)は流出停止。 放射能値1000倍(同)。取水口付近で1万5000ベクレル
その他 ウランとプルトニウムを混在させたMOX燃料を装荷。制御困難に陥りやすく、拡散した場合に毒性が最も高い。
主な出典
*4/7東電発表値を採用
東京新聞連載「福島第一原発の現状」、NewYorkTimes"Status of the Nuclear Reactors at the Fukushima Daiichi Power Plant"など
空中写真はPhotos of the Day - Fukushima Dai-ichi Aerialsより

使用済燃料プールの冷却

 すべて生コン圧送機で注水中。1、3、4号機の温度、水位不明。2号機の温度は不安定。(4/1:58度 4/1:72度 4/2:61度 4/3:50度 4/5:71度 4/6:68度 4/7:51度)

高濃度汚染水

 タービン建屋で見つかった汚染水を、4/4から東電が海水に投棄し始めた。この汚染水のほとんどは、事故後の冷却作業による注水が、原子炉と使用済燃料プールを経由して漏出しているため、冷却すればするほど、放出量も増加する。建屋に溜まっている水だけで6万トンにのぼる。(下の「海水を経由した汚染」の項も参照ください)
 亀裂からの汚染水の流出を止めるための「水ガラス(ケイ酸ナトリウム)」が話題になっているが、全体の状況を考えれば、一部の亀裂を塞いでも、別の場所から漏出するようになるだけだろう。

大気を経由した汚染

参考図

ドイツ気象庁による放射性物質の飛散予想(むこう3日間)。放出源の濃度が分からないため、気候条件のみによる予想です。つまり、この期間のあいだにあり得るベントや爆発によって、放射性物質が放出した場合に、どのように拡散するかをシュミレートしたものなので、この図から直接、危険度を評価することはできません。くわしい説明はこちらを:"with eyes closed." by Kan Yamamoto http://www.witheyesclosed.net/post/4169481471/dwd0329

海水を経由した汚染

 「海はごみ捨て場じゃない」全魚連関係者が東電に抗議。http://www.asahi.com/national/update/0406/TKY201104060148.html

 集中廃棄物処理施設内の汚染水8000トンの投棄が、8日まで行われます。また、5、6号機地下の汚染水1500トンも、9日までに投棄されます。(東電発表4/7)。

 今後、東北地方太平洋側の海洋は、かつてない規模の放射能汚染が続くでしょう。これについては、下記のフランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)が作成した図が参考になります。

 「原発はコストの低い発電方法であり、日本経済を支えている」といった主張は、急速に無意味なものになりつつあります。むしろ、原発は極めてコストの高い災害をもたらし、日本経済にトドメを刺そうとしている」と考える段階に来ているのではないでしょうか。

 政府と東電は「海水の放射能は拡散することで放射線量が減少するので影響は少ない」としているが、実は拡散した核種をプランクトンが吸い込み、それを魚が食べ・・・という形で、食物連鎖のなかで、蓄積されていく。そして高濃度に汚染された魚介類を、私たちが食べることになる。

 今後は、規制値の変更(緩和)にも注意が必要。

参考:汚染水の拡散予測(フランスIRSNによる)
http://fukurou.txt-nifty.com/fukurou/2011/04/irsn-b3b6.html

地下水を経由した汚染

 冷温停止中の福島第一原発5、6号機の地下でも、低レベル汚染水をを検出。(4/3)

モニタリングデータ

 首相官邸のサイトより:放射線モニタリングデータ
http://www.kantei.go.jp/saigai/monitoring/index.html

計画停電は何のため?

 今月で計画停電が終了の見込みなので、この項目は過去ログに入れました。
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20110407/1302151867#keikakuteiden

 東電管内で唯一稼働中の柏崎原発の総出力が491万kwですから、もしこれを停止させても、停電は必要ないことになります。原発は必要ありません。

イベント情報

 ぜひ、ご参加下さい。

4月11日(月)

福島原発で何が起きているのか』
山田太郎(元東芝原発技術者)、岡本 厚(岩波書店『世界』編集長)、保坂のぶと(前衆議院議員
2011年4月11日(月)午後6時開場 6時半スタート
生活クラブ館地下ホール(小田急線経堂駅下車)
http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/c2e94bbe86abea1efb42017b366f9dd9

4月16日(土)

●大阪「緊急4.16原発いらん!関西行動」
http://chikyuza.net/n/archives/8262

4月17日(日)

●京都 原発もうムリ!4.17鴨川・大風呂敷
4月17日(日)午前11時〜日没(その後、人がいるかぎりずっと)
京都・三条河川敷にて http://genpatsumoumuri.seesaa.net/

4月24日(日)

●東京 くり返すな!原発震災 つくろう!脱原発社会 集会とデモ
http://www.peace-forum.com/gensuikin/katsudou/110424yotei.html

●広島「原発なしで暮らしたい100万人アクション in ヒロシマ
http://blogs.yahoo.co.jp/mxx941/3510988.html

4月29日(金)

●東京「終焉に向かう原子力」第11回 チェルノブイリ原発事故25周年
東海地震の前に浜岡原発を停止させよう 福島原発震災をくりかえすな
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20110408/1302268362

重要情報のブックマーク

原子力資料情報室 http://cnic.jp/
全国の放射能濃度一覧 http://atmc.jp/
小出裕章 (京大助教) 非公式まとめ 京都大学原子炉実験所助教 小出裕章氏の情報発信 http://hiroakikoide.wordpress.com/
「社会情報リテラシー講義:福島原発事故をめぐる「安全」報道を考える」

    1. 第1回 「科学」「安全」「安心」:問題を整理する http://researchmap.jp/jowricset-111/#_111
    2. 第2回 基準と単位を整理する http://researchmap.jp/jo6nkzpvy-111/#_111
    3. ベクレルとシーベルトの変換 http://panflute.p.u-tokyo.ac.jp/~kyo/dose/

<電力の将来>スペインの風力発電、最大の電力源に成長 http://newsfromsw19.seesaa.net/article/195003319.html
流言・デマによるパニックを心配して情報を伏せている方々へ 静岡大学防災総合センター教授 小山真人 http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/etc/riskcom.html
ISEP: 3.11後のエネルギー戦略ペーパー:無計画停電から戦略的エネルギーシフトへ http://www.isep.or.jp/images/press/ISEP_Strategy110404.pdf
日本の加害者化 ーー対岸から火事を眺めて http://newsfromsw19.seesaa.net/article/194703247.html
福島原発震災(38)】フランスIRSNが海洋汚染のシュミレーション結果を発表 http://fukurou.txt-nifty.com/fukurou/2011/04/irsn-b3b6.html
http://sirocco.omp.obs-mip.fr/outils/Symphonie/Produits/Japan/SymphoniePreviJapan.htm
気象庁IAEAの要請をもとにつくったシミュレーション http://www.jma.go.jp/jma/kokusai/eer_list.html
放射能漏れに対する個人対策(第3版) http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html

(以上のまとめ:大富亮)