電気代不払いのこと

 原発を廃絶しなければならない。

 そう気がついて、何度もデモに行った。6万人、10万人と、デモは大きくなっていった。けれども、東電福島第一原発事故から1年半も過ぎるのに、いまだに日本は原発をなくせないでいる。それどころか、原発再稼働を進めようとしているのが、財界と電力会社と政府だ。どうしたらこれを変えられるのだろうかと、自分なりに考えた。

 政府は確かに原発を推進してきたし、これからも推進しようとしている。その最初の思惑は核武装だったのだろう。実際、政府の中で原発は「潜在的核武装能力」として位置づけられてきた。

 けれども、電力会社に原発を作らせている間に、こんどは電力会社の都合で、原発をなくせなくなった。原発は他の発電方式に比べて桁外れに大きな設備投資なので、これを回収する前に廃炉にすることはできないのだ。私の考えでは、すでに政府よりも電力会社の方が、歯止めのきかない存在だ。

 電力会社と、それに融資している銀行など、財界と、原発に賛成する電力会社の労働組合が、それぞれに政府に圧力をかけ、原発を推進させている。

 電力会社に対して、有効なデモができないだろうか。それなら「電気代を払わない」が一番だ。電力会社には、電気代以外の収入はほとんどないのだから、これを断たれるのがもっとも苦しい。そこで友人とともに「電気代不払いプロジェクト」を立ち上げた。これは誰にでもできるので、ぜひ皆さんに加わってほしい。

 そこでは、「抗議のための1円不払い」から、「電気代と賠償金の相殺」、はては「1円過払い」で返還させるといった、さまざまなアイデアが生まれている。

 「バカは死ななきゃ治らない」というが、東京電力は破綻しなければ変わらない。原発事故があっても、東電の経営者は誰一人として引責辞任しなかった。勝俣会長は無事に日本原子力発電という会社に天下り原発事故になす術もなかった清水社長も子会社に天下った。

 原発事故の賠償金は5兆円を下らないが、ほぼ全額を政府が負担することになった。つまり私たちの税金を投入する。

 この様子を見て、関西電力をはじめ、金の亡者に成り下がった9つの電力会社は理解した。「何があっても、政府が守ってくれる」。その条件は、官僚の天下りを受け入れることだ。

 そしてますます原発を増やそうとすらしている。青森の大間原発は工事が再開されることになった。もちろん高速増殖炉もんじゅにも新年度の予算が下りる。19兆円をドブに捨てた六ヶ所村再処理工場も、全部続行。これに抗議するには、電力会社を、言葉は悪いが「締め上げる」しかない。

 それにはこういうやりかたをする。

 東電は料金の値上げの時、向こう3年の総費用(見込み)を、販売電力量(見込み)で割った金額を申請した。それが1キロワットあたり19円だ。しかし仮に、思ったより費用が少なく、販売量が多かったら、浮いた分は東電の利益になる。逆に、費用が多くかかったら、赤字になる。そこで、東電を黒字にしてはならない──という課題が生まれる。

 東電は、いまだに大きな影響力を持っている。たとえば、政府に働きかけて破綻を回避したうえ、電気料金の値上げを果たし、次は来年4月に柏崎刈羽原発を再稼働するという。実に強大な権力だ。東電は賠償金も支払う必要がない。それは国が支払っている。

 こんな東電が、来年、再来年の決算で黒字を計上したら、どうなるか。ますます勢いづいて原発の再稼働を増やすだろう。そこで私たちは、あらゆる手段を使って、東電を赤字に追い込むための作戦を立てることになる。

 東電を赤字に追い込む手段は、不払いだけではない。柏崎刈羽原発の再稼働がされれば、それだけ火力発電の燃料費を節約すると東電は言う。逆に言うと、この再稼働を阻止すれば、その燃料費の分が、東電の赤字になる。不払いなどの抵抗を広げて、長引かせることで、まず東電への資金の流入をできるだけ止める。そして、電気代の支払いをかけて抗議することで、東電の予算のうち人件費、委託費を使わせる。

 何といっても、使われない予算が1円でもあれば、それは彼らの黒字につながるのだ。おおいに手間をかけさせ、悩ませ、資金の流入を食い止めよう。原発再稼働の阻止と、不払いの挟みうちで、東電を経営破綻に追い込もう。

 東電が原発事故によって経営破綻したとなれば、関電をはじめとする原発保有各社、そして世界の原子力複合体への影響はすさまじいものがある。1回でも原発事故を起こせば、電力会社が倒産するという、当然の帰結に、経営者たちは慄然とするだろう。債権を放棄しなければならない銀行にとっても、これは最悪のニュースで、それ以降は原発に投資する銀行は世界中からなくなるかもしれない。

 その時点になれば、東電には業務上過失致死傷などの罪状で、警察が捜査に入るのは確実だ。9月に姫路のコンビナートで爆発事故があったとき、すぐに警察が捜査に入ったのにひきかえ、東電は原子炉を4機も爆発させておいて、責任者がだれかも明らかになっていない。今の政府がやっていることは、そういうダブルスタンダードだ。

 東電が利益を上げることは、彼らの延命につながり、総括原価方式、発電から送電にいたるまでの垂直独占体制の維持、そして原発の増設に結びついている。福島の賠償費用だけでなく、使用済核燃料の再処理費用(バックエンドコスト)全額が国民負担が、すでに決まっている。

 それらの天文学的コストは、すべて、発電した電気を使い終わった後でやってくる。1ワットも電気を発電しない、致死量の放射能を帯びたゴミの管理のためだけに19兆円がかかる。これは経産省自身が「19兆円の請求書」という文書で発表していることだ。

 歴史には何度も曲がり角がある。2011年に、日本は東電を法的処理しそこなった。しかし次の曲がり角を見つけだし、そこに進むのが、私たちの役割ではないだろうか。

 電気代の不払いによって、私たちはひとりひとりが、電力会社と直接対峙することになる。今ですら、電気が来なくなるというのは、かなり緊張感のあるものだ。電気の送電をするのも、止めるも自由にする電力会社との緊張の日々を過ごすうちに、私たちは本当の敵の存在に気がつくだろう。

 私たちにとって電気とはいったい何なのか、という疑問にも、それぞれの答えが見つかるだろう。

 私たちが原発を廃絶するとき、私たちには、それよりもっと広く、大きな社会の変化を作り出す術が手に入っているはずだ。

2012年10月9日