「とりあえずチェチェン人」というやり方。

フォーブス編集長クレブニコフの死にはアメリカ政府が関心を持っていた。少なくとも自国民がモスクワで死んだという意味で。ロシア当局にはアメリカ当局から「早く捜査しろ」という要求がきていたが、これまで10人以上のジャーナリストの暗殺事件はどれも迷宮入り。なぜなら、報道を通して社会の不正を指摘しようとすれば、どうしても90年代以来の「民営化」(なんてものではない。ほとんどは国有財産の私略だ)にかかわった企業家や官僚、政治家にいきつく。その頂点に立っているのは、もちろんエリツィンだ。したがって、ジャーナリストは次々消えるし、捜査などまじめにするわけがない。

そんな中で、アメリカに対して「クレブニコフ殺しはチェチェン人だ」と言えば、例によってチェチェン人の悪いイメージを広めることができるし、アメリカがそれを認めれば、「対テロの戦い」の結束から見ても悪くない。事実かどうかはさておいて、スケープゴートにするのにはちょうどいいのだ。

ヌハーエフは今、トルコあたりにいると聞いている。彼はチェチェン独立派のイデオローグの一人で、日本にも1度来たことがあり、西側のフィルムメーカーが彼についての作品を作っているくらいの有名人。フレデリック・フォーサイスの小説「イコン」の作中に出てくるチェチェン人マフィアのボスとも言われている。

APの記事はあきらかにロシア検察の姿勢に疑問のようだ。今この時期にヌハーエフがクレブニコフを殺害する理由が、何年も前のインタビュー本一冊というのは、明らかに根拠として弱い。フォーブスが特集した「100人のオリガルヒ」というのは、言い換えれば「100人の詐欺師とマフィア」ということになるが、それらの中にヌハーエフは入っていたのだろうか?

この特集に問題があったとして、クレブニコフを殺す動機を持っていた人物は、最低100人。ヌハーエフを含めると101人(?)。その大勢の中でチェチェン人ヌハーエフと特定するなら、それなりの証拠が必要だ。

ところで、ウェブログ「バイナフ自由通信」では、ここしばらく北オセチアの学校占拠事件関連のニュースを収集していた。その件を追っていくと、意外な情報が出てきそうだったからだ。さらに、先週はチェチェン現地から、「遺体遺棄現場50箇所以上」というニュースもあった。それらのニュースを覆い隠すために、クレブニコフ事件の発表があったとは考えられないだろうか。