私たちの時代のスターリン

――(拷問や誘拐といった)事件は、ごく一部の人に降りかかる特殊な出来事だという人もいますが?
「それらを『特殊』な出来事だと言ってしまえるのは、被害者が私たちの愛する人―息子や兄弟、夫―ではないからです・・・それがごく一部の人に降りかかるものだからといって、その悲惨さが薄れるはずはありません。当事者にとって、『一部』などという割合には何の意味もないのですから」

ラムザン・カディーロフの誕生日に行われた、ラジオ・リバティ最後のアンナ・ポリトコフスカヤへのインタビュー。カディーロフが、ロシアやチェチェンの一般市民を誘拐・拷問・殺害し、彼らがあたかも戦闘中に死亡した戦闘員であるかのように見せかけていることや、彼女自身がそうした事件についての裁判の証人になっていることなどが述べられています。

タイトルの「私たちの時代のスターリン」とは、チェチェン親ロシア政権のボス、ラムザン・カディーロフのことです。

2006年10月9日 ラジオ・リバティ

http://rferl.org/featuresarticle/2006/10/FC088B08-0CBD-4800-B2FF-F00F5494FA5E.html

――最近、モスクワのジャーナリストたちは、人権問題に関しては「まったく嘆かわしい限り」だが、ラムザン・カディーロフの役割はすでに「破壊者」から「建設者」に変わったということを述べています。こうした発言に対してどうお考えでしょうか?


「バカバカしすぎてコメントする気にもなれませんね・・・『人権問題は嘆かわしい限り』とは、いったいどういう意味ですか?ただ座って人権問題について嘆く必要など、どこにもありません。カディーロフや、カディーロフの行為によって苦しんでいる人たち―親戚を亡くした人や拷問を受けた人、難民や避難民―を、直接的にも間接的にも知らなければよいだけです。けれども、被害を受けた人の大半は、賞賛すべき人たちです。個人的にもそうした多くの人を私は知っています」


「今、私の机の上には2枚の写真が置かれています。私は、カディーロフの収容所で日々行われている拷問について調査をしています。写真に映っているのは、「カディーロフツィ」(カディーロフの私兵集団)によって誘拐・殺害された、何の罪もない人々です。彼らは広報活動キャンペーンの一環として殺されたのです」


「誘拐されて私の机の上の写真に映されている人々―その中にはロシア人もチェチェン人もいるのですが―は、アレロイ村でカディーロフツィと戦った戦士であるかのように見せかけられています。[訳注:戦闘中に戦士が死亡するというのは]よくある話ですよね。テレビやラジオ、新聞には、そんな話が溢れています。カディーロフがテレビカメラの前で公式インタビューを受けているとき、別のチャンネルでは背景に死体が転がっているというわけです。ですが、実際には、彼らは[訳注:戦闘員などではなく]、あるとき誘拐されて行方不明になって殺されてしまった人々なのです」


――そうした事件は、ごく一部の人に降りかかる特殊な出来事だという人もいますが?つまり、そうした特殊な事件は、地域の発展につきものの代償だというわけですが。それについてはどう思われますか?


「まずは、今年の上半期に去年の下半期よりも多くの誘拐事件があったということを指摘したいですね。しかも、その数というのは、誘拐されたという報道がなされたにもかかわらず遺体が発見されていないという人の数にすぎません。ここでぜひ申し上げたいことは、それらを『特殊』な出来事だと言ってしまえるのは、被害者が私たちの愛する人―息子や兄弟、夫―ではないからだということです。先ほどお話した写真ですが、遺体はすさまじいほどの拷問を受けていました。それがごく一部の人に降りかかるものだからといって、その悲惨さが薄れるはずはありません。当事者にとって、『一部』などという割合には何の意味もないのですから」


「カディーロフは、私たちの時代のスターリンです。チェチェンの人々にとって、これは紛れもない真実です。多くのジャーナリストたちは、それを認めようとはしませんが。彼らは、被害がごく一部のものであり、現在では悪としか思えないものも、いつか善に変わるだろうなどと、私たちに信じ込ませようとしているのです」


「カディーロフに送られる賞賛についても、スターリン時代と同じだと言えばおわかりでしょう。公的な場で話をするとすれば賞賛はつきものです。一方、内輪の場では、婉曲に内密に、こう言われます。『ヤツは最悪だ』とね。本音と建前の使い分けというものが、チェチェン人には染みついているわけですね。これは非常に危険なことだと思います」


――ラムザン・カディーロフの権力は、ウラジーミル・プーチンの権力とつながっているというジャーナリストたちの意見に同意しますか?


「カディーロフの運命は、むしろ(彼に復讐をしようとしている人々の)数につながっていると思います。もちろん、私は誰に対しても死を望んだりしませんが、彼のような特殊な人物は、自分自身に厳重な警護をつける必要があるでしょう」


チェチェンについて知らないジャーナリストたちは、カディーロフがチェチェンの伝統を復興させようとしているなどと言っています。まったくバカバカしいですね。彼はチェチェンの伝統を破壊しているのです」


――カディーロフが殺されないとして、彼が早期に[訳注:チェチェン大統領]選挙を行う可能性は高いと思いますか?


「彼は操り人形で、いま彼がいなくてはならない理由は何もありません。彼が他の誰よりも権力を持っているとは私は思いません。彼はまったくの臆病者で、護衛に囲まれています。彼が(チェチェンの)大統領になるとは私は思いません」


「個人的には、カディーロフの誕生日に望んでいることが一つだけあります。彼がいつか裁判の被告席に立って、これまで行ってきた犯罪について、もっとも厳格な法的基準によって裁かれることです」


「ところで、他の新聞ではまったく取り上げてもらえないのですが、ノーヴァヤ・ガゼータに掲載された3つの記事をもとに、カディーロフツィとカディーロフに対して刑事裁判が行われています。私自身、そうした裁判のひとつの証人になっています。裁判には、ラムザン・カディーロフ自身が関与した2人の誘拐事件に関するものもあります」