国民投票法案、参議院憲法調査特別委員会で可決

書きたいことが多すぎて、でもどのように書けばよいか解らない。本日(11日)、参議院憲法調査特別委員会で、国民投票法案が採決された。それも、与党による強行採決ではなく、民主党の合意を得た円満な採決だった。

何から書けばよいのだろう。「充分な審議を尽くす」という名目で行われた地方公聴会で、公述人が前日に決定され、資料が当日の朝に配られて、傍聴の手続きさえ知らされない市民が会場の外で「傍聴させろー」と叫んでいたことだろうか(Tさん情報)。170名【5/14 訂正:300名ではなく170名でした】もの人たち(衛視さん情報)が今日の審議を傍聴し、多くの人が院内集会や国会前での座り込みに参加し、それ以上の数の人々が自分にできる方法で異議申し立てをして、そしてあっけなく法案が可決されたことだろうか。それとも、自分たちの声を聴こうとしない、そんな政治家を私たちが選んでしまった、そのそもそもの始まりから書いていくべきなのだろうか・・・。(邦枝)


委員会に出席した安倍首相は、憲法論議の出発点とするべきことは、今の憲法が占領下でGHQによって書かれた「押しつけ憲法」であるということではなく、日本が戦争をしてしまったことに対する反省ではないのかという民主党・簗瀬議員の質問を、「ダイナミックな論理展開」という一言で流してみせた。国会の承認なしに海外への自衛軍の派兵を可能にする自民党憲法草案*1を作っておきながら、「防衛省法の成立は、わが国の民主主義国家としての成熟、シビリアンコントロール文民統制)に対する自信を内外に示すことになった」などという「ダイナミックな論理展開」を自らが披露しているにもかかわらず。

安倍首相は、集団的自衛権の行使について内閣法制局に解釈変更を要請し、それが拒否されたため有識者懇談会を立ち上げたのではないかという疑惑を否定した。4月26日付の日経新聞が、「安倍晋三首相は26日午前、政府が憲法解釈で禁じてきた集団的自衛権の行使について『所掌の部署で、私の方針にのっとって研究・整理していくのは当然だ』と語り、行使を一部容認するための新たな解釈の検討を宮崎礼壱内閣法制局長官に指示していたことを認めた。訪米出発に先立ち、公邸前で記者団に語った」と報じているにもかかわらず。
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070426AT3S2600C26042007.html

安倍首相は、改憲のターゲットは端的にいって憲法9条ではないのかという共産党・仁比議員の追及を、曖昧な言葉ではぐらかしてみせた。安倍首相も出席し、自民党が主催した4月24日の「新憲法制定推進の集い」の後に開かれたパネル・ディスカッションで、日本経団連の三木繁光副会長が「憲法改正の心臓部は九条改正だ。次に改正条項の96条だ。この2つがボケないように改憲を進めてもらいたい」と発言していたにもかかわらず。また、安倍首相自身が、2006年11月4日付のフィナンシャル・タイムズのインタビューに答えて、「時代にそぐわなくなった条文といえば、典型的な例は9条です」と語っているにもかかわらず。
http://toda9jo.no-blog.jp/network/2007/04/post_bfeb_1.html
http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20061103-01.html

安倍首相は、海外で自衛隊武力行使をする可能性があるのかという社民党・福島議員の質問に、最後まで決して答えようとしなかった。自民党政務調査会主席専門員の田村重信氏が、自らのブログで「憲法改正で軍隊の保持が明記され、あえて憲法集団的自衛権行使は可能と明文化する必要がない」と述べ、海外での武力行使を容認しているにもかかわらず。
http://tamtam.livedoor.biz/archives/2007-04.html#20070427

安倍首相は、少数者の意見に耳を傾けるのが民主主義ではないのかと呼びかけた国民新党・長谷川議員に対して、選挙の結果をどのように反映していくかが重要だと開き直ってみせた。まさにその「選挙の結果」自体、得票率で見ればたった11%の差が約4倍もの議席数の差を生むような欠陥を持つ選挙制度によって実現されたものであるにもかかわらず。
http://www.magazine9.jp/juku/005/index.html

なんだか安倍首相ウォッチャーのブログじみてきたので、審議の冒頭で質疑を行った自民党・舛添議員についても、思うところを書いておこう。結論から言えば、7月の参院選でこの人を落選させるだけでも、日本の民度は飛躍的に上昇するのではないかと思う。舛添議員は、安倍首相に向かって「英断をもって」集団的自衛権を行使するべきだと訴えたり、「人権を守るために」北朝鮮を武力攻撃するべきだというような煽動までしていたが、国民投票法案を審議するはずの委員会でなぜこんな話を聞かされなければならないのか、そもそも意味が解らない。

社民党の近藤議員が指摘していたように、要するに、国民投票法案とは、憲法を変えるための公正中立な手続き法などではなく、自民党による改憲と一体となった準備法案にほかならない。舛添議員が質疑に立ったのも、彼が新憲法起草委員会事務局次長で、自民党憲法草案の起草の実務を担当したからなのだろう。手続き自体が公正でも中立でもないのだから、法案の中身が公正でも中立でもないのはむしろ当然といえる。国民投票法案の審議は、始めから
ためにする議論」だった。本日法案を採決します。以上。

共産党の仁比議員は、最後の答弁で、この法案を通すことを国民は決して許さないでしょうと言い切った。私もそうだと思いたい。けれど、知らないことは、許さないことさえできないのだ。許さないと思うなら、国民投票法案について語り続けなければならない。今からでも、ではなく、今からこそ。

*1:自民党憲法草案:9条2項 (1) 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。(2) 自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。(3) 自衛軍は、第一項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。(4) 前二項に定めるもののほか、自衛軍の組織及び統制に関する事項は、法律で定める。