トリヤティ市でバス爆発 8人死亡

2007年11月1日 モスクワタイムズ
デイヴィッド・ノワク/セルゲイ・セルゲエフ

原文: http://www.themoscowtimes.com/stories/2007/11/01/001.html

 サマラ州トリヤティ市――水曜日、自動車工業都市のトリヤティ市で、バスが爆発し、乗客8人が死亡し、少なくとも54人が負傷した。爆発は、混雑した交差点で朝の通勤時間帯に起こった。ロシア捜査当局は、爆弾テロと断定した。
 検察庁傘下の半独立機構である「捜査委員会」[訳注:9月に始動した「ロシア版FBI」]の総責任者であるアレクサンドル・バストルイキンは、爆破テロが北コーカサスの過激派の犯行である可能性が高いと述べた。インターファクスが報じた。バストルイキンはインターファックスに対して、「コーカサスの線から事件を捜査している・・・無論それ以外の可能性も捜査しているが」と語った。FSBサマラ州支部のユーリ・ロージン長官によると、捜査当局は、犯罪抗争や偶発的な事故の線からも事件を追っているという。
 捜査を指揮する「捜査委員会」サマラ州支部のイリーナ・ドロシェンコ広報官によると、爆発が起こった午前8時10分前後には、バスは学生らで満員だったという。ドロシェンコは、爆発が自白テロリストによるものだった可能性もあると述べた。「いかなる可能性も除外するわけにはいきません。捜査はまだ始まったばかりです」
 爆発―推定TNT(トリニトロトルエン)火薬2キロ分に相当―による最年少の死者は7歳で、最年長は78歳だった。トリヤティ市役所保険課のオルガ・イェフトゥシェフスカヤ広報官が語った。被害者の大半は17歳から21歳だったという。「被害者の大半は、火傷を負い、手足を骨折し、脳震盪を起こしていました」とイェフトゥシェフスカヤは言う。イェフトゥシェフスカヤによると、ある学生は顔に第三度熱傷*1を負って病院に運び込まれた。ただし、負傷者には生命に危険のある者はいないという。
 目撃者の証言によると、爆発の直前にスラブ系の不審な若い男性たちがバスを降りてきたという。メディアの報道によると、―2004年にヴォロネジで起こった爆破事件の装置と同じように―爆弾はケースに入れられていなかったという。ヴォロネジの爆破事件を実行したのは、北コーカサスに本拠地を置くテロ組織に属するスラブ系のメンバーだった。
 トリヤティ市立大学付近にいた19歳の学生ダーリャ・スヴォイェコシノワは、現場から100メートル離れた地点に車を止めたとき、爆発音を聞いた。「レストランの近くでバスを見たんですが、何かが起こったことがわかったので、近づいて見ると、大学の女子学生が地面に倒れていました」。爆発が起こった交差点付近の学校に通う13歳のアレクセイ・バンノフは、爆発音を友人と聞き、一時間目が終わると現場にやってきたという。「辺り一面にガラスが飛び散っていました。人間の手も落ちていました。どこも警官だらけで、救急車が3台来ていました」
 被害者の中で、32歳のオルガ・コヴァレンコの名前だけが、水曜夜に報じられた。モスクワタイムズが入手し、トリヤティ市役所保険課がトリヤティ市立大学に送った資料には、爆発後にトリヤティ市の病院に運ばれてきた21人の学生と1人の教員―マルガリータ・ドゥルジニナ―の名前が記載されている。トリヤティ市立大学のアンナ・チェルシナ広報担当は、「私たちはショックでパニックに陥りました。子どもと連絡が取れない親たちは泣きながら電話をかけてきました」と言う。
 近隣のタティシチェフ大学でも同じようなことが起こっていた。教員は欠席した学生の安否を確かめるために親たちに連絡を取った。ある大学の広報担当のヴァレンティーナは、2人の学生がバスに乗り合わせて、軽い怪我を負って手当てを受けていると語った。市立第一病院の精神外傷科―被害者の何人かが運び込まれた―で電話を受けた女性は、マスコミによる被害者への取材を許可しなかった。市立第二病院も電話によるインタビューに応じていない。
 破壊されたバスを映したおぞましい写真は、一日中ウェブサイトにアップされ続け、バラバラになった手足がバスの回りや路上に転がっている現場の様子が報じられた。バスの窓はほぼ全壊し、後部座席―証言によると爆発はここで起きた―の天井は、一部吹き飛んでいた。数台の救急車がバスを囲み、救急救命士が軽症の乗客に手当てを施す場面がテレビでも報じられた。
 現地ジャーナリストのイェフゲニー・レオンチェフは、爆発から約30分で現場に駆けつけた。「チケット売り場の人が怪しい二人組を見たと教えてくれました。二人とも30歳以下で、不審な動きをしていたそうです」。レオンチェフによると、その二人はスラブ風の外見をしており、中央ドアと後部ドアの間に立っていたという。「彼らがバスを降りて、バスが30メートルほど進んで赤信号で止まったときに」爆発が起こったとレオンチェフは言う。バスに乗り合わせていた多くの乗客は、爆発装置が置かれていたのはおそらく後部右のタイヤの上にあたる部分だったと述べている。
 共産党員でロシア連邦安全保障会議のメンバーでもあるヴィクトル・イリューヒンが法執行当局筋から得た情報によると、爆発は―ダゲスタンで起こった攻撃と同じように―計画された自爆テロだったとされる。「テロリストは、この地域を掌握していると言う当局を出し抜こうとしているのでしょう。これは(12月2日)の(下院議会)選挙を前に政情を不安定化させようとする企みなのです」
 トリヤティ市はパニックに襲われ、親たちは次々と教育機関に電話を掛け、市内で別の爆発が二度起こったというデマも飛び交った。トリヤティ市は、ギャング同士の抗争はあっても、これまでほとんどテロは起こってこなかった。「捜査委員会」のドロシェンコは、爆弾がケースに入っていなかったという報道についてはコメントしようとしていない。
 Agentura.ruセキュリティ・サイトのアンドレイ・ソルダコフ編集長は、この種類の爆弾は、人をターゲットにする攻撃ではなく、建築物を破壊する際に多く用いられると指摘する。「ですから、爆弾がケースに入れられていなかったという結論を出すにはためらいがあるのです」。爆弾の中に弾丸が入っていたかどうかははっきりしないとソルダコフは言う。なぜなら、爆発で生じたバスの金属片が同じような役割をしただろうからだ。この種類の爆弾は、1人の死者と9人の負傷者を出した、2004年のヴォロネジの一連のバス爆破事件でも用いられた。2005年5月、FSBは、スラブ系でワッハーブ派イスラム教に改宗したマキシム・パナリンを逮捕した。当局によると、パナリンはチェチェン人司令官に命じられて攻撃を行ったことを自白したという。
 トリヤティ市は、巨大自動車メーカーのアフトバスの本拠地である。アフトバス労働組合のピョートル・ゾロタリョフ代表によると、アフトバスの社員の中には事件の被害者も目撃者もいないという。
 ウラジーミル・プーチン大統領は、サマラ州のウラジーミル・アルチャコフ知事に対して、迅速な対応を要求した。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官が語った。「大統領は、何を置いても、遺族や負傷者の家族に対して必要なあらゆる支援が迅速に行われることを望んでいます」

*1:最も重傷な段階の火傷。皮膚が壊死を起こし、潰瘍が形成されるため、治癒後も傷跡が残る。