新体制ロシアをどう見たか

 5月7日にドミトリー・メドベージェフがロシア新大統領に就任して1か月以上がたった。「新体制」発足にあたって日本の各メディアはこれをどう評価したのか。また、チェチェン問題はどう扱われていたのか。新聞の論説を追ってみた。

 結論から言えば、各紙の論調はどれも一律で、メドベージェフ/プーチンの「二頭体制」を懸念しつつ、今後は汚職の一掃と国際協調を願う、という(つまらない)ものであった。確かにプーチンはそのまま権力の座に事実上とどまりつづけ、二頭体制という不安定な政権が確立したことは憂慮すべきことである。汚職や欧米との関係を改善していくことは重要だし、必要なことに違いない。
 しかし、たくさんある問題の中でいくつかをとりあげる場合、こうした価値序列が一律化してしまうことには疑問を持たざるを得ない。近年のロシアの経済的躍進によって、各紙が着目するのはビジネスの発展や欧米との関係ばかりで、チェチェンをはじめとする連邦内共和国の事情はほとんど無視されている。民族問題などもはやどこにもないと言わんばかりである。
朝日新聞の、「ロシア新大統領 独り立ちするしかない」(2008年5月9日朝刊)では、「二頭体制」の不透明性を述べたあとで、現状の課題として、国内インフレ、貧富の格差、欧米との関係、ウクライナグルジアとの確執などを挙げた。また、国民の不満が高まれば「どちらが責任をとるかで権力争いが始まりかねない」としており、抱えているそれぞれの問題よりは、「二頭体制」という構図そのものに対して特に懸念しているようである。だからこそ、「新大統領の独り立ちを急ぐべきだ」と結んでいるのである。
 一方、毎日新聞の、「ロシア新体制「開かれた国」へ向かえるか」(2008年5月9日朝刊)は、これまで新生ロシアを率いて庶民生活を向上させたのをプーチンの功績だとした上で、「プーチン氏が強権の人だったのも確か」だと述べている。ここに、ユコス解体や強気の外交政策などと並列して「チェチェン独立闘争を力ずくで抑え込んだ」ことへの言及がなされている。また、チェチェン政策に批判的だったポリトコフスカヤやリトビネンコが暗殺されたことにも触れられており、ロシアの「闇」の部分が指摘されている点を評価したい。ただし、今後の課題としてはロシアが「開かれた国」になり、米欧との協調的外交を展開していくことがカギとなるとしただけで、チェチェン問題について何らかの提言がされているわけではない。

 読売新聞の、「ロシア新体制 戻せるか国際社会の信頼」(2008年5月8日朝刊)は、これまでのプーチン外交が「信頼感に欠け」ていたため、メドベージェフ政権下でグルジアとの緊張関係を打開したり、汚職に真剣に取り組んだりすることが不可欠であるとしている。ここで着目すべきは、メドベージェフが「法の支配」を取り戻すと主張していることに対して、「国際法という重要な法を尊重しなければならない」と述べていることである。
 確かに、「法の支配」は健全な国家として不可欠な前提なのであるが、もし法律自体が強権的に変更されていくのであればそれは「法の独裁」であって、民主社会にとって全く逆の効果を生みだしてしまう。「法の支配」と称して警察権力が増強されることなどは、往々にしてあり得るわけである。しかし、国際法というより大きな枠組みでの法律を尊重するならば、そうした横暴はいくらか軽減できる。チェチェン問題についてここで直接触れられているわけではないが、「国際法の順守」はチェチェン政策を考える際にも大変重要な要素であることは言うまでもない。

 とはいえ日本のマスメディアを見ていると、チェチェン問題はすでに解決済みであるかのような扱われ方をしていると感じてならない。「チェチェン総合情報」でも紹介されているように、チェチェンでの人権侵害や国外へ逃れたチェチェン難民の状況は決して良くなっていないのだ。「民族問題は解決済み」といったソ連時代の嘘を批判することはできても、現在のロシアに対して同じ眼を持つことがで??%8