チェチェンニュース Vol.08 No.06 2008.07.03

http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080703/1215047236 (HTML版) 発行部数:1666部
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INDEX

*メディア時評 新体制ロシアをどう見たか
*東京新聞:ロシア地方実力者発言『双頭体制』に波紋
*HRW: イングーシにおける「汚い戦争」戦術の停止を
*人権オンブズマン、ロシア軍による大量遺体遺棄を批判
*「西側には失望した」マスハドフの息子アンゾールが語る
*「ポリトコフスカヤ殺害犯はヨーロッパにいる」ロシア政府が主張
*「百人以上の傀儡派を殲滅」カフカスセンター報道
*現地住民はヴェデノでの戦闘の死者を高く推測

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メディア時評 新体制ロシアをどう見たか

 5月7日にドミトリー・メドベージェフがロシア新大統領に就任して1か月以上がたった。「新体制」発足にあたって日本の各メディアはこれをどう評価したのか。また、チェチェン問題はどう扱われていたのか。新聞の論説を追ってみた。

 結論から言えば、各紙の論調はどれも一律で、メドベージェフ/プーチンの「二頭体制」を懸念しつつ、今後は汚職の一掃と国際協調を願う、という(つまらない)ものであった。確かにプーチンはそのまま権力の座に事実上とどまりつづけ、二頭体制という不安定な政権が確立したことは憂慮すべきことである。汚職や欧米との関係を改善していくことは重要だし、必要なことに違いない。

 しかし、たくさんある問題の中でいくつかをとりあげる場合、こうした価値序列が一律化してしまうことには疑問を持たざるを得ない。近年のロシアの経済的躍進によって、各紙が着目するのはビジネスの発展や欧米との関係ばかりで、チェチェンをはじめとする連邦内共和国の事情はほとんど無視されている。民族問題などもはやどこにもないと言わんばかりである。

朝日新聞の、「ロシア新大統領 独り立ちするしかない」(2008 年5月9日朝刊)では、「二頭体制」の不透明性を述べたあとで、現状の課題として、国内インフレ、貧富の格差、欧米との関係、ウクライナグルジアとの確執などを挙げた。また、国民の不満が高まれば「どちらが責任をとるかで権力争いが始まりかねない」としており、抱えているそれぞれの問題よりは、「二頭体制」という構図そのものに対して特に懸念しているようである。だからこそ、「新大統領の独り立ちを急ぐべきだ」と結んでいるのである。

 一方、毎日新聞の、「ロシア新体制「開かれた国」へ向かえるか」(2008年5月9日朝刊)は、これまで新生ロシアを率いて庶民生活を向上させたのをプーチンの功績だとした上で、「プーチン氏が強権の人だったのも確か」だと述べている。ここに、ユコス解体や強気の外交政策などと並列して「チェチェン独立闘争を力ずくで抑え込んだ」ことへの言及がなされている。また、チェチェン政策に批判的だったポリトコフスカヤやリトビネンコが暗殺されたことにも触れられており、ロシアの「闇」の部分が指摘されている点を評価したい。ただし、今後の課題としてはロシアが「開かれた国」になり、米欧との協調的外交を展開していくことがカギとなるとしただけで、チェチェン問題について何らかの提言がされているわけではない。

 読売新聞の、「ロシア新体制 戻せるか国際社会の信頼」(2008 年5月8日朝刊)は、これまでのプーチン外交が「信頼感に欠け」ていたため、メドベージェフ政権下でグルジアとの緊張関係を打開したり、汚職に真剣に取り組んだりすることが不可欠であるとしている。ここで着目すべきは、メドベージェフが「法の支配」を取り戻すと主張していることに対して、「国際法という重要な法を尊重しなければならない」と述べていることである。

 確かに、「法の支配」は健全な国家として不可欠な前提なのであるが、もし法律自体が強権的に変更されていくのであればそれは「法の独裁」であって、民主社会にとって全く逆の効果を生みだしてしまう。「法の支配」と称して警察権力が増強されることなどは、往々にしてあり得るわけである。しかし、国際法というより大きな枠組みでの法律を尊重するならば、そうした横暴はいくらか軽減できる。チェチェン問題についてここで直接触れられているわけではないが、「国際法の順守」はチェチェン政策を考える際にも大変重要な要素であることは言うまでもない。

 とはいえ日本のマスメディアを見ていると、チェチェン問題はすでに解決済みであるかのような扱われ方をしていると感じてならない。「チェチェン総合情報」でも紹介されているように、チェチェンでの人権侵害や国外へ逃れたチェチェン難民の状況は決して良くなっていないのだ。「民族問題は解決済み」といったソ連時代の嘘を批判することはできても、現在のロシアに対して同じ眼を持つことができなければ、問題の解決は一層遠のいていくばかりである。(藤沢和泉/チェチェンニュース)

東京新聞:ロシア地方実力者発言『双頭体制』に波紋

 チェチェン同様に独立を志向していたロシア連邦内のタタールスタン共和国のシャイミエフ大統領が、地方首長の直接選挙制の復活を訴え、波紋を広げているというニュース。中央集権の進むロシアでは、かなりの矛盾や格差が、地方に蓄積されていることをうかがわせる。

 くわしく読む: http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008062502000120.html

HRW: イングーシにおける「汚い戦争」戦術の停止を

 国際人権団体ヒューマンライツ・ウォッチ(HRW)が、チェチェンから北コーカサスに広がりつつあるロシア政府・軍による人権侵害の実情を強く批判するレポートを発表した。

 レポートは、チェチェンの軍事紛争は北コーカサス、特にイングーシに人権侵害と不安定を拡散させていると報告した。ヒューマン・ライツ・ウォッチはロシア政府に対し、チェチェン紛争で行われているようなおぞましい虐待にまで状況が悪化しないよう、この対ゲリラ戦の遂行方法を改善し、イングーシでの人権侵害の取り締まりをするよう、強く主張した。

 このレポートは人権問題に焦点をあてているが、ロシア政府・軍による「汚い戦争戦術」そのものが、報告書で述べられている「政府の転覆や、地域に駐留するロシア連邦の治安部隊・軍隊の撤退、北コーカサスにおけるイスラム統治の拡大などといったさまざまな要求を掲げるいくつもの武装グループ」を生み出しているという現実がある。

  くわしく読む: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080703/1214981494

人権オンブズマン、ロシア軍による大量遺体遺棄を批判

 前号にひきつづき、ヌハジーエフ氏。チェチェン親ロシア政権の人権オンブズマン、ヌハジーエフ氏は、ロシア軍が殺害したとされる、300人のチェチェン市民の遺体遺棄についての調査の開始を要求した。
 同氏は、チェチェンの首都グロズヌイから25キロほどのところにあるアスファルト工場の敷地内に、300人の遺体が埋められていることを、住民から知らされた。この遺体の中には、男性・女性、および子どもがふくまれており、これは1999年10月30日に、自動車の車列に乗って避難しようとしていた人々が、ロシア軍の攻撃を受けて死亡したものだと言う。

  くわしく読む: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080702/1214979593

「西側には失望した」マスハドフの息子アンゾールが語る

 2005年に殺害されたマスハドフ大統領(独立派)の息子、アンゾールは、現在北欧で難民生活を送っている。最近の発言から。

 「私は父のような話し方をしますから、人々がやってきて<政治家になるべきだ>と言うんです。気は進みませんが、運命はわかりません」

 「ロシアは<チェチェンにはもう問題は何もない>と宣言して、外国からの訪問者を、修復の終わったストリートに案内します。彼らはそれぞれの国に帰ってから、チェチェンが平和になったと想像して、もう大丈夫だとみんなに話すのです。西側にはずっと期待してきました−いつかは沈黙を破って、<ロシアはこの虐殺を止めるべきだ>と言うのを。私たちは、もうそんなことは期待していません」

「ポリトコフスカヤ殺害犯はヨーロッパにいる」ロシア政府が主張

 ロシア政府はまたもやアンナ・ポリトコフスカヤの殺害犯を取り逃がした模様。最近の報道では、西側諸国、特にベルギーに対して水面下で犯人の引渡しを求めているという。傍から見ていると???な展開なのだが、もともと暗殺の時点から、チェチェン人を犯人にし、黒幕をベレゾフスキーに仕立てるというシナリオは公然と存在した。

  くわしく読む: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080702/1214974648
  関連記事: http://chechennews.org/chn/0621.htm

「百人以上の傀儡派を殲滅」カフカスセンター報道

 夏を迎え、例年どおりチェチェンは戦闘の季節に入った。南部ヴェデノなどでは親ロシア派100人を殺害したという報道も。6月末の戦闘状況についての報告。

  くわしく読む: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080702/1214981494

現地住民はヴェデノでの戦闘の死者を高く推測

 独立派サイト「カフカスセンター」の戦火報告が誇張気味で、親ロシア派の公式発表がつねに控え目なのは一貫した傾向だが、ロシア人権団体が集めた情報でも、大規模な戦闘があったことは確実なもよう。

  くわしく読む: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080702/1214983454

イベント情報

7/5,6 東京,大阪:2008年世界難民の日・全国リレー

知っていますか、日本にも難民がいることを。 在日難民の方にお話を伺います。パフォーマンス、写真・絵画展なども開催 http://rafiq.jp/wrd/index2.html

7/5 春日:裁判がおかしい

綿井健陽さんと大西章寛さんの講演。光市母子殺害裁判と立川反戦ビラ事件判決について語る http://ankoku-mirai.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_cb63

7/5 日比谷:「"反核"は究極のエコ」NO NUKES MORE HEARTS Live & Demo STOP SAISHORI ☆ JOIN HANDS!

核はいらない、ハートをもっと。ライブとデモでストップ再処理、手をつなごう! http://www.nonukesmorehearts.org/top.html

7/10 飯田橋:夏ボラ★スペシャル講座「あなたもなれる!編集者入門」

「編集」とは何か? プロの編集者が、編集・企画力アップのヒントを伝授します。NGO市民グループの会報づくりのお役立ち講座 http://www.tvac.or.jp/news/13047.html

7/11 早稲田:風刺マンガの役割−インドネシア紙に40年描き続ける−

インドネシアの『コンパス』紙に40年にわたって人気風刺マンガ「パシコムおじさん」を描き続けたスダルタ氏を迎える。作品を見ながらのユニークな講演 http://www.nindja.com/modules/eguide/event.php?eid=13

7/12 水戸:ドキュメンタリー『チベットチベット』水戸上映会+トークショー

チベットの素顔を知っていますか。金昇龍監督+ドルマさん(在日チベット人)のトークショーhttp://www.net1.jway.ne.jp/abeusr1/

7/21 御茶ノ水:写真と歴史が語る隠されたチベット

チベット僧や市民の自由を求める声は止まない。この半世紀、チベット問題はなぜ隠され続けてきたのか。4人の専門家による、写真で視るチベット報告会 http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20080623/1214207120

映画/写真展など

12人の怒れる男

養父殺しの罪に問われるチェチェン人少年。12人の陪審員は、激論の末真実にたどりつく。現代ロシアの真実を照らし出す衝撃の法廷劇 http://www.12-movie.com

『暗殺リトビネンコ事件』

リトビネンコはなぜ殺されなければならなかったのか?アンドレイ・ネクラーソフ監督による迫真のドキュメンタリ http://litvinenko-case.com/theater.html

6/9-7/12 下高井戸:白夜映画祭II

ロシア、グルジア、そしてパリ。検閲と圧力に屈せず生きた巨匠たちと新世代。超弩級のハードボイルド前線物「道中の点検」も! http://www.ne.jp/asahi/kmr/ski/shimotakaido_cinema/byakuya.html

6/30-7/19 東京,尼崎,名古屋:燐光群公演『ローゼ・ベルント』

何を望んで生きるのか。生きるからこそ望むのか。自立の時代の手前で、一人の女性に重ねられた災厄。「ドイツ自然主義悲劇」ハウプトマンの代表作、一世紀の歳月を経て、日本初演 http://www.alles.or.jp/%7Erinkogun/rose.html

おいしいコーヒーの真実

世界第三位のコーヒー消費国日本。あなたがスターバックスで支払ったコーヒー代はどこに行く?コーヒー好きの誰もが見るべき映画です http://www.uplink.co.jp/oishiicoffee/

『光州5.18』

韓国現代史や民主化運動に関心を持つきっかけに。1980年、韓国で起きた<光州の悲劇>を完全映画化 http://may18.jp/

『ウリハッキョ』

北海道の朝鮮学校の日常を描いたドキュメンタリー。子どもたちの「勇敢な登校」が始まる! http://urihakkyo.blog105.fc2.com/

パレスチナ1948 NAKBA』

パレスチナ人がNAKBA(大惨事)と呼ぶイスラエル建国の年に何が起こったのか? 広河隆一40年間の取材の集大成 http://nakba.jp/

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』

「革命」に、すべてを賭けたかった・・・。5人の若者たちがあさま山荘へと至る、激動の時代を若松孝二が描く! http://www.wakamatsukoji.org/

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