ボツになった原子力白書と松浦祥次郎さんの黒歴史

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今日のトピックス ボツになった原子力白書と松浦祥次郎さんの黒歴史

 おはようございます。

 パニックになると、亀が甲羅に隠れるみたいに「そこにいないフリをしてしまう」人っていますよね。

原子力白書の公表中止 福島第1原発収束していないのが理由

 国の原子力委員会近藤駿介委員長)は12日、2010年版原子力白書の公表中止を決めた。福島第1原発事故が収束していないことが理由としている。原子力白書は過去にも東海村臨界事故などの影響で公表が中止されたことがある。

 ふつう、そういう場合はいつもより厳しく議論をして、修正した内容をなるべく早い時期に発表するもののような気が……。

 また、経産省は「エネルギー白書」の策定を秋まで延期しました。何か問題が起こったら、できるだけ会合を開かない、文書を残さない、という方針のようです。そうすれば、原子力の歴史はいいことばっかりが残りますが……。

 さらに原子力委員会は、政策議論を放棄。

 しかしここは、新しく、よりよい原子力政策大綱をまとめて欲しいところです。たとえば次のような内容が必要になるだろうと、シロウトなりに考えます。

    1. 福島第一原発事故に関する報告
    2. 原子力発電の段階的廃止に向けた、電力供給など技術的問題点の洗い出しと解決案
    3. 核廃棄物の恒久的処分のための技術開発と政策の枠組み作り、国家的コンセンサスにむけたオープンな議論の呼びかけ

*

 さてところで、埋もれた情報をもう一つ掘り出しました。経産省の広報誌「Enelogy」というものがありますが、福島事故以降に出た最新号に、作ってから40年たつ老朽原発でも、全然問題ないでしょう!という記事が載っていたので、あわててお詫びを出したそうです。

 記事の中で、原発の寿命の延長について、住民側から『当初は30年間の運転で廃炉するという話だったのに、話が違う』という、いたってまともな意見が出たのに対して、原子力安全研究協会の松浦祥次郎理事長は、こう言い放ちます。

30年と最初は言ったというのは、それ以外言いようがなかったのでしょう(笑)。原文ママ
……そうおっしゃる人に対しては、素直に頭を下げて、「当時はその程度の知識しかなかったが十分に余裕を考えて設計・建設をしました。使っていくうちに知識も手に入りました。判断手法もわかったので、この先使ってもご迷惑をかけることはないと確信しますのでご理解ください」という話をしたら良いと思います。
「"信頼の上に"高齢化を重ねる原子力発電」 http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110411010/20110411010-2.pdf

(笑)。っすか。ここ、笑いでいいんですか。黒歴史というやつですかこの記事は。

 言うまでもなく、事故を起こした福島第一・1号機は1971年製で、運転40年目でした。事故がなかったら、一体何年使う気だったのか……。

 松浦祥次郎さんは、先週このダイアリーで紹介した、推進派による懺悔文書と言われる「福島原発事故についての緊急建言」に名前を連ねていますが、責任は──まだこれからですね。

 さて最後にグリーンピースによる署名のご紹介です。ぜひご協力をお願いします。

Greenpeace:オンライン署名「枝野さん、安全な電気がほしいです」
http://www.greenpeace.org/japan/edano3/?20110405gv

 政府は、2030年までに少なくとも14基以上の原子力発電所の新増設を行うというエネルギー基本計画を閣議決定しています。人や自然を傷つけるエネルギーはもうたくさんです。
 原子力発電を続けるのではなく、エネルギーの効率的な利用を徹底し、自然エネルギーを増やすことが、これからの日本にふさわしいのではないでしょうか。

 それではまた明日まで、お元気で。

この日記の目的

 福島第一原発事故に関する情報を、手短にまとめる試みです。不正確な点がありましたら、どうぞメールなどでご指摘下さい。 editor@chechennews.org (情報提供もお受けしています)
 サイトの内容の引用やリンクはご自由にどうぞ。

福島第一原子力発電所の状況

 3号機炉心上部で温度上昇。12日:170度から、14日:250度。注水の増強が必要。(4/14東電発表)

 1号機の炉心の7割以上が損壊しており、燃料の被覆管のジルコニウムなどから大量の水素が発生、水素爆発の危機が迫っている。

 さらに危険なのは、圧力容器内で溶融した炉心が水と接触して発生する水蒸気爆発である。そして、原子炉内部での再臨界の可能性も有識者から指摘され始めた。福島原発の危機的状況は、なお拡大している。

 下表の通り、タービン建屋地下に高濃度の汚染水が流出した事実は、格納容器の破損を意味している。「柏崎刈羽原発の閉鎖を科学者・技術者の会」によれば、圧力容器の底部に溶融した燃料が到達し、底部の制御棒挿入部を壊して、吹き出している可能性が高い。

 「低レベル汚染水の放出」と呼ばれる、事前予告のない放射性物質の海洋投棄が続き、世界的な問題になりつつある。すでに中国、韓国、ロシアの政府とメディアからは批判が続出しており、大気へのベントも含めると、風下の北米圏からの批判が強まるのも時間の問題。

 原子炉にもともと設置されている冷却システムが復旧する可能性は極めて低い。格納容器への注水が即・放射性物質を含む漏水となっている現状を考えると、今後環境に排出される放射性物質の量は相当多くなるであろう。

     1号機 2号機 3号機 4号機
製造 1971年GE製 1974,GE,東芝 1976,東芝 1978,日立
空中写真
主な出来事 3/12 水素爆発(原子炉建屋) 3/15 水素爆発(圧力抑制プール) 3/14 水素爆発(原子炉建屋) 3/15 水素爆発(使用済燃料貯蔵プール)
原子炉 燃料400体。炉心溶融。圧力容器破損の疑い。温度低下、ノズル部で260度(上昇)。圧力容器への真水注入を中断、水素爆発防止のため窒素注入中(17日までに6千立方メートル)。 燃料548体。炉心溶融。圧力容器破損。圧力抑制プール破損。真水注入中(!)。 温度急上昇中。燃料548体。炉心溶融。圧力容器破損の疑い。真水注入中 燃料なし
燃料の損傷率* 70% 30% 25% -
使用済燃料プール 使用済燃料292体、新燃料100体。水位、水温不明。注水中断 使用済燃料587体、新燃料28体。水位不明、水温(51度)。注水中 使用済燃料514体、新燃料52体。水位、水温不明。注水中 使用済燃料1331体、新燃料204体(!)。燃料棒の一部が破損。通常の100倍濃度の放射能汚染水あり。水温90度前後。注水中
高濃度汚染水 タービン建屋地下の汚染水は380万ベクレル/cc。核分裂生成物(死の灰)漏出か。複水器から貯蔵タンクへ移送中。 取水口付近の汚染水は260ベクレル/cc(法定限度の6500倍)。核分裂生成物漏出か。複水器から貯蔵タンクへ移送中。 タービン建屋地下の汚染水は390万ベクレル/cc。核分裂生成物漏出か
その他 ウランとプルトニウムを混在させたMOX燃料を装荷。制御困難に陥りやすく、拡散した場合に毒性が最も高い。
主な出典
*4/7東電発表値を採用
東京新聞連載「福島第一原発の現状」、NewYorkTimes"Status of the Nuclear Reactors at the Fukushima Daiichi Power Plant"など
空中写真はPhotos of the Day - Fukushima Dai-ichi Aerialsより

使用済燃料プールの冷却

 すべて生コン圧送機で注水中。1、3、4号機の温度、水位不明。2号機の温度は不安定。(4/1:58度 4/1:72度 4/2:61度 4/3:50度 4/5:71度 4/6:68度 4/7:51度)

大気を経由した汚染

参考図

ドイツ気象庁による放射性物質の飛散予想(むこう3日間)。放出源の濃度が分からないため、気候条件のみによる予想です。つまり、この期間のあいだにあり得るベントや爆発によって、放射性物質が放出した場合に、どのように拡散するかをシュミレートしたものなので、この図から直接、危険度を評価することはできません。くわしい説明はこちらを:"with eyes closed." by Kan Yamamoto http://www.witheyesclosed.net/post/4169481471/dwd0329

汚染水・海水を経由した汚染(海洋投棄)

 4月に入り、東電はタービン建屋で見つかった汚染水約1万トンを海洋投棄した。オリンピック規格のプール3杯分にあたる。汚染水のほとんどは、事故後の冷却作業による注水が、炉心と使用済燃料プールを経由して漏出しているため、冷却すればするほど、放出量も増加する。今も建屋に溜まっている水だけで6万トンにのぼる。

「海はごみ捨て場じゃない」全魚連関係者が東電に抗議。http://www.asahi.com/national/update/0406/TKY201104060148.html

 今後、東北地方太平洋側の海洋は、かつてない規模の放射能汚染が続くと思われる。これについては、下記のフランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)が作成した図が参考になる。

 「原発はコストの低い電源であり、日本経済を支えている」といった主張は、急速に無意味なものになりつつある。むしろ、原発は極めてコストの高い災害をもたらし、日本経済にトドメを刺そうとしている」と考える段階に来ているのではないだろうか。

 政府と東電は「海水の放射能は拡散することで放射線量が減少するので影響は少ない」としているが、実は拡散した核種をプランクトンが吸い込み、それを魚が食べ・・・という形で、食物連鎖のなかで、蓄積されていく。そして高濃度に汚染された魚介類を、私たちが食べることになる。

 4月13日の厚労省の発表によれば、福島県いわき市沖・福島第一原発から35キロの地点で採取されたコウナゴから、1万2500ベクレルの放射性セシウムを検出した。食品衛生法での暫定基準値の25倍。

 今後は、規制値の変更(緩和)にも注意が必要。

参考:汚染水の拡散予測(フランスIRSNによる)
http://fukurou.txt-nifty.com/fukurou/2011/04/irsn-b3b6.html

地下水を経由した汚染

 2号機周辺に設置された井戸から出た地下水の放射能濃度が、ここ1週間で17倍に増加している。ヨウ素131が1ccあたり610ベクレル。(4/15朝日 http://www.asahi.com/national/update/0414/TKY201104140463.html )

 冷温停止中の福島第一原発5、6号機の地下でも、低レベル汚染水をを検出。(4/3)

モニタリングデータ

 首相官邸のサイトより:放射線モニタリングデータ
http://www.kantei.go.jp/saigai/monitoring/index.html

計画停電は何のため?

 今月で計画停電が終了の見込みなので、この項目は過去ログに入れました。
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20110407/1302151867#keikakuteiden

 東電管内で唯一稼働中の柏崎原発の総出力が491万kwですから、もしこれを停止させても、停電は必要ないことになります。原発は必要ありません。

イベント情報

 ぜひ、ご参加下さい。

4月20日●東京「大地震」「原発事故」から、自分たち(アジア)の過去・現在・未来を語る集い

発案者 桜井大造(劇団「野戦の月」)、丸川哲史
日時・場所 4月20日午後3時〜6時 明治大学和泉校舎リエゾン棟2階「会議室」
発言予定者 桜井大造、早尾貴紀(東京経済大学教員)、その他

 表題にあるような話題で集まりを持ちたいと思います。語る中身については、現時点でさほどはっきりしているわけではありません。少なくとも想定しているのは、この間の出来事が何を意味するのか、そして今後、私たちは如何に3.11以降の世界(特にアジアという地で)を生きて行くのかーー発言予定者を中心にし、またそれ以外でも集まられた者同士で話を紡いでみようとする試みです。
 とはいえども材料(=起点)が必要なわけです。台湾、大陸中国などを舞台に果敢にテント公演を試みて来た桜井大造氏は、この間、東北の被災地を回られて来ました。桜井氏に映像資料の上映も含め、話題を提供していただきます。また仙台市在住であった早尾貴紀氏(パレスチナイスラエル研究者)は、お子さんとともに関西方面に脱出し、その後仙台と関西の間(そして東京)を往復しつつ、ご自身の軌跡をメールその他で発信し続けております。早尾さんにも話題提供をお願いしました。

(校舎へのアクセス) http://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/izumi/access.html
(キャンパス・マップ) http://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/izumi/campus.html
*リエゾン棟はキャンパス・マップの右の方に書き込まれています。付近は工事中ですので気を着けて来てください。
*上記からもほぼ明らかでありますが、いわゆる「安全対策論」のようなものではありません。趣旨を理解していただけそうな方であれば、どなたでもお誘いください。

4月23日〜5月6日

●東京『特集上映 25年目のチェルノブイリ
http://www.mmjp.or.jp/pole2/
 ポレポレ東中野では、チェルノブイリ原発事故の発生した4月26日に毎年、原発に関する作品の企画上映を開催しています。単純な賛否ではなく、そもそも原子力発電とは何なのか、なぜ原発を必要とするのか、その背景を見据えることから始めようと、国内外の作品を問わず、劇映画、ドキュメンタリー、原発の建設記録を追った映画なども上映してきました。事故から25年目の今回は区切りの年として規模を拡大し、二週間の特集上映を企画しました。

4月24日(日)

●東京 くり返すな!原発震災 つくろう!脱原発社会 集会とデモ
http://www.peace-forum.com/gensuikin/katsudou/110424yotei.html

●広島「原発なしで暮らしたい100万人アクション in ヒロシマ
http://blogs.yahoo.co.jp/mxx941/3510988.html

4月29日(金)

●東京「終焉に向かう原子力」第11回 チェルノブイリ原発事故25周年
東海地震の前に浜岡原発を停止させよう 福島原発震災をくりかえすな
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20110408/1302268362

参考文献と、重要情報のブックマーク

原子力資料情報室 http://cnic.jp/
福島原発震災」をどう見るか―私たちの見解(その1)http://kk-heisa.com/data/2011-03-23_kkkenkai.pdf (『柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会』)
福島原発震災」をどう見るか―私たちの見解(その2) http://kk-heisa.com/data/2011-04-07_kkkenkai2.pdf (〃)
全国の放射能濃度一覧 http://atmc.jp/
小出裕章 (京大助教) 非公式まとめ 京都大学原子炉実験所助教 小出裕章氏の情報発信 http://hiroakikoide.wordpress.com/
参考資料  マニュアルどおりにならない原発事故対応 〜パニックに陥らず、正確な情報で行動しよう http://d.hatena.ne.jp/chechen/20110325/1301023227
「社会情報リテラシー講義:福島原発事故をめぐる「安全」報道を考える」

    1. 第1回 「科学」「安全」「安心」:問題を整理する http://researchmap.jp/jowricset-111/#_111
    2. 第2回 基準と単位を整理する http://researchmap.jp/jo6nkzpvy-111/#_111
    3. 第3回 数値を確認する http://researchmap.jp/jo7wxgftu-111/#_111
    4. 第4回 事後と事前:安心と安全の境 http://researchmap.jp/joge2by5g-111/#_111
    5. ベクレルとシーベルトの変換 http://panflute.p.u-tokyo.ac.jp/~kyo/dose/

<電力の将来>スペインの風力発電、最大の電力源に成長 http://newsfromsw19.seesaa.net/article/195003319.html
流言・デマによるパニックを心配して情報を伏せている方々へ 静岡大学防災総合センター教授 小山真人 http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/etc/riskcom.html
ISEP: 3.11後のエネルギー戦略ペーパー:無計画停電から戦略的エネルギーシフトへ http://www.isep.or.jp/images/press/ISEP_Strategy110404.pdf
日本の加害者化 ーー対岸から火事を眺めて http://newsfromsw19.seesaa.net/article/194703247.html
福島原発震災(38)】フランスIRSNが海洋汚染のシュミレーション結果を発表 http://fukurou.txt-nifty.com/fukurou/2011/04/irsn-b3b6.html
http://sirocco.omp.obs-mip.fr/outils/Symphonie/Produits/Japan/SymphoniePreviJapan.htm
気象庁IAEAの要請をもとにつくったシミュレーション http://www.jma.go.jp/jma/kokusai/eer_list.html
放射能漏れに対する個人対策(第3版) http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html

(以上のまとめ:大富亮)