ロシア:瀕死のジャーナリズム

「我々の敵はテロリストでなく、ジャーナリストだ」というプーチン大統領の発言が雄弁に語っているように、チェチェン戦争は独立したジャーナリズムに対する戦争でもある。その被害者の一人が、「人権擁護」新聞編集長のスタニスラフ・ドミトリエフスキーだ。昨年1月にチェチェン戦争の平和的解決を求める独立派政府の声明を掲載したドミトリエフスキーは、国家の民族的対立を煽動した容疑で、いまや刑事裁判の被告席に立っている。

チェチェンでは平和を求めた大統領が殺害され、ロシアでは戦争を糾弾するジャーナリストが社会的に抹殺されようとしている・・・。

「スタニスラフ・ドミトリエフスキーを支えてください!」

プラハ・ウォッチドッグ
http://www.cjes.ru/actions/action.php?p_id=1&l=en

たった十年前までは、ロシアでもジャーナリストが存在感と発言権を持っていた。ジャーナリストの報告や意見は歓迎され、議論の対象になっていた。独立系メディアに対する需要があり、ジャーナリストや人権活動家は、権力機構に対して実質的な影響力を行使していた(特に第一次チェチェン戦争の終結にあたって彼らの貢献には甚大なものがあった)。

ここ数年、「ロシアのジャーナリズム」という言葉には別の解釈が生まれてきている。ジャーナリズムはますます「国営化」し、より正確にはいっそう国家の統制下に置かれている。国家のプロパガンダから独立したメディアも減少してきた。テレビもラジオも大半が国営になり、わずかな新聞だけが独立した見解を保ち、検閲の手を逃れている。

もっとも統制された情報は、チェチェン共和国に関する情報だ。そこでは(訳注:チェチェン戦争は終わったとするロシア政府の)公式発表にもかかわらず、いまだに殺戮と誘拐が繰り広げられている。チェチェンで起こっている出来事を伝えるごく少数の独立したオルタナティブなメディアの一つが、ニジニ・ノブゴロド人権協会(NOPCh)の出版協会によって設立された「人権擁護」新聞である。

2005年9月2日、ニジニ・ノブゴロド検察局は、「人権擁護」新聞の編集長スタニスラフ・ドミトリエフスキーを、ロシア連邦刑法第282条抵触容疑(職権を濫用して、民族または人種、宗教的不和を煽ること)*1で起訴した。ドミトリエフスキーは、容疑が確定した場合には3年から5年の禁固刑を受けることになる。

ドミトリエフスキーが犯罪者扱いされることになった原因は、2005年1月に「人権擁護」新聞がチェチェン独立派政府のアフメッド・ザカーエフ*2アスランマスハドフ*3の声明を掲載したこと、そしてその声明がロシア―チェチェン紛争の平和的解決を求めるものであったことだ。「人権擁護」新聞は、ロシア政府とロシア軍、ウラジーミル・プーチン大統領個人に対して痛烈な批判を行った。人権活動家は、今回の起訴が政治的な動機にもとづいたものであり、憲法で保障された言論の自由を奪うために仕組まれたものであることを指摘している。2005年11月15日、国際人権監視団体のアムネスティ・インターナショナルは声明を発表し、ニジニ・ノブゴロド人権協会の出版機関に対する様々な圧力に対する懸念を表明した。また、ドミトリエフスキーが有罪判決を受けた場合には、一連の圧力は彼を政治犯に仕立て上げるために行われたことになると指摘した。

裁判は2005年11月16日に開始された。12月15日、ドミトリエフスキーは法廷で証言を行い、審問を受けた。彼はすべての容疑を否認する証言を行い、自分は無罪であるだけでなく、人種差別と外国人嫌悪によって検察局から不当に告訴され侮辱されていると述べた。

裁判の前日、ニジニ・ノブゴロド裁判所は、ロシア・チェチェン友好協会*4の解散を求めるニジニ・ノブゴロド地区の司法省連邦登録部の訴えを却下している。

ニジニ・ノブゴロドでは、ニジニ・ノブゴロド人権協会に対する情報戦争が進行中である。同協会のスタッフは暴力によっても脅かされている(ニジニ・ノブゴロド地区内務省は、2005年10月7日にこうした脅威にもとづく刑事裁判第155200号を開始した)*5

2005年8月15日、ニジニ・ノブゴロド国税局の監査によって、ニジニ・ノブゴロド人権協会を脱税容疑で起訴する決定第25号が下された。2005年9月12日には、ニジニ・ノブゴロド裁判所のジェーニャ・ベリヤコワ裁判官が上記の決定を差し止めている。

チェチェン共和国で起こっている事件を報道する独立系メディアの一つを叩き潰し、その編集長であるスタニスラフ・ドミトリエフスキーを刑務所に入れるために、当局はあからさまに手段を選ばなくなってきている。

「人権擁護」新聞は、単に国家のプロパガンダが語っていないことを人々に語ろうとしているというだけの理由で、有罪になってしまうのだろうか?

あなたはそれでもよいと思いますか?

もしそうでないと思うのなら、この声明文に署名をして、スタニスラフ・ドミトリエフスキーを支えてください!

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追記:明日2月3日に、ニジニ・ノブゴロド裁判所でドミトリエフスキーに対する判決が下る予定です。上記の声明文はロシア語版のみなので、よろしければ今からでも日本語と英語による抗議文例を紹介している下記のサイトをご覧ください。
http://blhrri.org/kokusai/sos/sos_3762.html

*1:より正確な条文では「公にもしくはマスメディアを通じて、嫌悪や敵意を煽ることを目的とする行為および、個人や集団をそのジェンダー、人種、国籍、出自、宗教もしくは所属する社会的集団によって侮辱すること」

*2:チェチェン共和国独立派政府副首相兼文化相

*3:1997年の選挙によって民主的に選出された故チェチェン共和国大統領。この声明からわずか2ヵ月後の2005年3月にロシア連邦保安局によって殺害された。

*4:ドミトリエフスキー氏はロシア・チェチェン友好協会の執行役員でもある。

*5:2004年1月には、ロシア・チェチェン友好協会のボランティアスタッフが拷問・殺害される事件が発生している