バサーエフの死、終わらない戦争

ootomi2006-07-12


ロシア最大のお尋ね者であったチェチェン野戦司令官シャミーリ・バサーエフが、7月9日死亡した。バサーエフは、チェチェン独立運動の過激派を代表する存在であり、ベスラン学校占拠事件を含め、ロシアに対する数多くの大規模なテロ攻撃への関与を表明してきた。バサーエフの死はクレムリンの対チェチェン政策に変化をもたらすのだろうか?ラジオ・リバティのバレンティナス・マイト記者による分析。

ラジオ・リバティ

http://rferl.org/featuresarticle/2006/07/77ADBE92-9F0C-4F61-8C92-AB1457125CEF.html

2006年7月11日 プラハ

クレムリンバサーエフの死が重要な勝利であると主張している。

チェチェンでは、現地の親モスクワ政権の大統領であるアル・アルハーノフが、インターファックス通信の取材に応じて、バサーエフの死は「不法な武装勢力に対する戦いに合理的な終止符を打った日として記念されるだろう」と述べている。

クレムリンの変化は望めない

ロシア人記者のアンナ・ポリトコフスカヤは、チェチェン紛争に関して極めて精力的な取材を行っている。クレムリンバサーエフの死を偉大な勝利として宣伝し、チェチェンに対する既存路線を変えることはないだろうと彼女は指摘する。
「この人物(バサーエフ)が死んでも、(クレムリンの)政策は変わらないでしょう。今にも、あるいはいずれ、クレムリンは−もともと交渉する気がないにせよ−(チェチェンに)交渉相手が一人もいないということを言い出すようになるでしょう。なぜなら、クレムリンにとっては、実際に交渉相手などいませんし、抵抗勢力も存在しないことになるでしょうから」

ロンドンのエコノミスト・インテリジェンス・ユニット*1のニコラス・レッドマンも、彼女に同意する。彼もまた、クレムリンが交渉を開始することはないと考えている。
「そんな(クレムリンが交渉を開始するような)ことが起こったら驚きますね。バサーエフの死はきっかけにはなりません。今のところ、クレムリンには交渉をしようという意思などたいしてないでしょう。バサーエフの死が何かを変えられるとは思えません」

モスクワ・カーネギー・センター*2のロシア政治専門家であるニコライ・ペトロフは、現在の政策が目下のところ機能していると思われる以上、バサーエフの死がクレムリンの対チェチェン政策を変えることはないだろうと述べる。

にもかかわらず、バサーエフの死はそれほど大きな勝利ではないとペトロフは指摘する。バサーエフという野戦司令官は、叩きのめされている独立運動における象徴的な人物にすぎなかったからである。

繰り返される独立派指導者の死

バサーエフは、ロシア軍によって殺害された独立派指導者の最新のリストに加わった。

先月、ロシア治安機関は、独立派大統領アブドゥル・ハリム・サドゥラーエフを殺害した。サドゥラーエフは、アスランマスハドフがロシア治安機関との戦闘中に死亡した後、2005年3月に彼の後継者となっていた。

7月10日のプーチンによるコメントは、クレムリンが武力によってのみチェチェン戦争を解決することを決めたことを示唆している。

「テロリストの脅威は依然として大きく、いかなる状況においてもチェチェンにおける作戦を緩和するべきではなく、むしろ作戦を強化し、チェチェンで実行中のあらゆる行為をより効果的にするべきである」とプーチンは述べた。

チェチェン抵抗勢力

したがって、ほとんどの識者は、現在の状況がほぼ続くだろうと見ている。

それは、チェチェン独立派の一部によっても共有される直観でもある。

ロンドン在住のチェチェン独立派外相、アフメッド・ザカーエフは、バサーエフの死がチェチェン情勢を変えることは「まったくないだろう」と語っている。

そして、チェチェン過激派のイデオローグ、モフラディ・ウドゥーゴフは、バサーエフの死を受けて、カフカスセンターのウェブサイトに掲載された声明文で、「チェチェン戦士はロシア軍に対する『ジハード』を続けていく」と発表した。

*1:英国経済誌"The Economist"の企業間事業部門。世界200カ国の政治経済に関する分析やデータを世界中の企業・官公庁・教育機関に提供している。

*2:ロシアの有力民間シンクタンク