「チェチェンとイラクとパレスチナをつなぐもの」

チェチェンイラクパレスチナの共通点――その一つはこれらの国または地域が「対テロ戦争」という名の圧倒的非対称の暴力によって支配されていることだと思います。1994年から続く戦争によって、チェチェンでは約100万人といわれた人口のうち20万〜25万人が死亡しました。イラクでは、湾岸戦争後の経済制裁によって5歳以下の子ども62万人を含む150万人が死亡し*1、2003年のイラク戦争開始以降4万人以上の市民の命が失われています*2パレスチナでは、現在のインティファーダが始まった2日後にイスラエルが住民への爆撃を開始し、石を投げただけの人々を2日で何十人も殺傷しました*3。これに対して、たとえばイラクで占領を続ける米軍の死者数は公式統計によると約2650人*4。どう考えても戦争というより虐殺と呼ぶべき状態が続いているわけですが、テロリストのレッテルを貼られているのは、なぜか虐殺されている側の人間だったりします。占領されている側が占領している側を攻撃するのは、テロではなくレジスタンスであり、ジュネーブ条約によって認められた権利でもあります。けれど、今やテロを定義することができるのは、つねに「対テロ戦争」を声高に叫ぶ者たちの特権になりました。あたかも、テロとは「彼らから我々に向けられる暴力」であり、テロリストとは「我々の暴力によって殺される人々」である、とでも言うように。


次に、チェチェンイラクパレスチナを侵略・占領しているロシアと米国、イスラエルという3ヶ国の共通点の中から、(1) 核兵器保有 (2) 国家や企業によるマスコミ支配 (3) 社会保障システムの崩壊 (4) 国際刑事裁判所に未加入 という問題についてざっと考えてみたいと思います。

(1) 世界には、常任理事国5ヶ国(米国、ロシア、イギリス、フランス、中国)やインド、パキスタンのように公然と核兵器保有している国と、イスラエルのように公然の秘密として核兵器保有している国*5があります。

(2) プーチン政権下のロシアでの露骨なマスコミ統制については、バイナフ自由通信*6でも紹介しているので繰り返しませんが、米国で1950年代以降に軍産複合体とマスコミとの癒着が進み、テレビが6局、ラジオがたった1局しか残っていないこと、イスラエルが非常に洗練されたマスコミ操作を行っていること*7については、意外と知られていないかもしれません。

(3) 貧困ライン以下の生活をしている国民の割合は、ロシアで20.6%*8、米国で12.7%*9イスラエルでは何と子どもの3人に1人*10におよびます。ロシアでは、富裕層10%と貧困層10%の所得格差は現在27倍、首都モスクワでは50倍になっているそうです。一般的には、この数値が12倍以上になると社会不安が増大し、革命が起こりやすい状況が発生すると言われており*11、富の再分配システムが機能していないことがわかります。

(4) 国際刑事裁判所とは、ジェノサイドをはじめ重大な人権侵害を犯した個人を裁く常設国際裁判所なのですが、ロシアも米国もイスラエルもこの国際的な司法システムに加入していません。

ところで、これはなんだか今の日本の状況に似ていないでしょうか?

(1) 現在首相の座にもっとも近いと言われている安倍晋三官房長官は、2002年に早稲田大学のシンポジウムで「日本核武装論」というテーマで「小型であれば原子爆弾保有も問題ない」*12なんてすごい発言をしています。
(2) また安倍長官ネタになりますが、女性国際戦犯法廷の番組改変をめぐってNHKに圧力・・・なんていうのもありました。
(3) 日本の貧困率は15.3%で、特に若年層と高齢者で貧困率が高くなっています*13。なんというか、私自身も思い当たる節があったりして。
(4) 日本も国際刑事裁判所に未加入の国の一つです。

日本のロシア化(あるいは米国化、イスラエル化)が何を意味するかについては、別の機会に語りたいと思いますが、一つ確かに言えることがあります。それは、今チェチェンで、イラクで、パレスチナで起こっていることを歴史がどう評価するかは、私たちがこれからどのような世界を創っていくかにかかっている、ということです。その意味で、チェチェンで起こっていることと、日本にいる私たち一人一人が今後積み重ねていく選択は、決して無関係ではありません。あなたはどんな世界を創りたいと思いますか?