メモ:9.11から5年

「世界を変えた」9.11から昨日で5年になる。事件の後、ロシアのプーチン大統領は、即座に米国の「テロとの戦い」への支持を打ち出した。「テロとの戦い」は、それを推進する主体が「テロ」の温床となる構造的な不平等を際限なく拡大させる、終わりの見えない戦争だ。その陰では、いつでも弱い立場に置かれた人々が犠牲になっている。

3000人近くの犠牲者を出した9.11は確かにひどく痛ましい。だが、世界には私たちの記憶に刻まれない無数の9.11があるはずだ。たとえば、チェチェンでは1944年にスターリンによる強制移住が行われ、50万人といわれた人口の半数が失われた。1994年から続いているチェチェン戦争では、再び人口の五分の一から四分の一が死亡している。

「9.11は世界を変えた」――この言葉に違和感を覚えるのは、チェチェン人が何十万人死んだところで世界は何一つ変わらない――そんなふうに言われている気がしてしまうからかもしれない。9.11の死者を悼み、死者の記憶を語り継ごうとすることが、チェチェンで、そして世界の―気が滅入るほど多くの―他の場所で苦しんでいる人たちに対する想像力を壊死させることであってはならないと思う。