リトビネンコ事件:自国民の引き渡しにおけるロシアのダブルスタンダード

ootomi2007-07-31

原文: http://www.rferl.org/featuresarticle/2007/07/bb5a26f3-ba8a-40ea-b358-8f4913779b38.html

2007年7月19日 ラジオ・リバティ

 ロシアは元ロシア情報局員のアレクサンドル・リトビネンコ暗殺事件の第一容疑者であるアンドレイ・ルボゴイの引き渡しを拒否している。英国はロシアの対応について「受け入れがたい」と非難し、ロシアとの関係を再考しようとしている。

 ラジオ・リバティのロシア特派員が、人権団体「ロシア市民支援」の代表スベトラーナ・ガンヌシキナに、ロシアの引き渡し政策についてのインタビューを行った。

 ロシア憲法は自国民の引き渡しを禁じているが、ガンヌシキナは過去にロシアが自国民を引き渡した例があると主張している。

 「ロシア市民が引き渡された例はいくつもあります。多くの場合―おそらく引き渡しを正当化するために―ロシアは引き渡しの後で容疑者のロシア国籍を剥奪したり、容疑者はロシア国民ではなかったかもしれないなどと述べたりするのです」とガンヌシキナは言う。

中央アジアへの引き渡し

 「私が知っている限り、最初にロシア国民が引き渡されたのは、2002年にムラド・ガラバエフが(トルクメニスタンに)引き渡された例でした。彼はロシアとトルクメニスタン二重国籍を持っており、トルクメニスタンの要請を受けて引き渡されたのです」
「彼は後にロシアに戻ってきましたが、それは弁護士の献身的な協力を得て、欧州(人権)裁判所に訴えを起こした後でした」(ガンヌシキナ)

 ムラド・ガラバエフは、トルクメニスタン中央銀行から4150万ドルが盗まれた事件の容疑者の一人だった。ロシア警察は、窃盗事件が報道されて間もなく、中央銀行の元従業員だったガラバエフをモスクワで逮捕した。

 似たような事件はいくつもあるとガンヌシキナは言う。「2005年、ロシア市民のアリーシャ・ウスマノフは、微罪の刑期を務め上げて出所したところで誘拐されました」
「秘密警察が彼を誘拐してウズベキスタンに送還したのです。ウズベキスタンは彼に8年の禁固刑を下しました。ロシアは彼の身柄を確保しようとはしませんでしたし、彼に対する関心を示すこともありませんでした。こうした事件はいくらでもあるのです。たいていは(ウズベキスタンの大統領イスラム)カリモフを満足させようとしているのでしょう」

複雑な法律問題

 リトビネンコ事件に関しては、ロシアは英国を満足させようとはしていないようだ。ロシアは、ルゴボイを自国で裁判にかける用意があると表明したが、英国はこの提案を拒否している。

 英国捜査当局は、致死量の高放射能ポロニウム210を投与し、毒性物質の痕跡を機内やロンドンとドイツのいたるところに残したのはルゴボイだと確信していると述べた。

 リトビネンコ事件をめぐる法的な状況は、ロシア当局が、自らの主張を通そうとして、ロシア国内法と国際法を持ち出していることによって複雑化している。

 「国際条約がロシアの国内法と異なる取り決めを課しているなら、国際条約が優先されるべきです。(ロシア憲法の)第4章第15条にしたがって、リトビネンコ事件に関して、被害者一人だけでなく社会全体に危険をもたらす恐ろしい犯罪の容疑者とされているロシア市民を、ロシアは引き渡さなければいけません。多くの人々に対して盗みを働いた人物が引き渡されたのは明白なのですから」(ガンヌシキナ)

 「ロシア政府がルゴボイを引き渡そうとしないことはまったく許せません。(ルゴボイの関与を示す)有力な証拠があるとしても、ロシアの弁護士が彼を弁護すればよいのです。ですが、ルゴボイを疑う証拠があるとすれば、彼を引き渡すべきです」(ガンヌシキナ)

 ロシア市民を引き渡すことはできないという憲法の条項を頑なに守るために、ロシアは、国内法に違反して自国民を引き渡す義務はないという1957年の欧州犯罪人引渡条約を引き合いに出している。

外交合戦

 リトビネンコ事件によって、すでに英国とロシアの関係は悪化している。今週、英国はモスクワがルゴボイの引き渡しを拒否した件をめぐってロシアの外交官四名を追放すると発表した。

 一方、ロシアは英国に報復措置を取ると明言した。

 本日、ロシアは英国の外交官四名を追放すると発表した。

 ロシアは、モスクワが引き渡しを要求している20以上の事件―チェチェンの独立派指導者アフメッド・ザカーエフや亡命中の政商ボリス・ベレゾフスキーらの引き渡しなど―に英国が応じていないと批判している。ベレゾフスキーはクレムリンを激しく批判し、ロシアの現政権を転覆すると宣言している。