中東からの財政支援の増額を目論むウマーロフ

2007年11月5日 チェチェン・プレス
アンドレイ・スミルノフ
原文: http://jamestown.org/chechnya_weekly/article.php?articleid=2373749

 先月、ラマダンに先立って、チェチェンコーカサス独立派の指導者ドック・ウマーロフは、北コーカサス反乱軍とその支援者が、イスラム―主に中東―諸国の支持者たちと穏やかでない関係を結んでいることを明らかにするビデオ声明を発表した。
 ビデオに映ったウマーロフは、幾人かの髭面の戦士たちと一緒に座っていた。ウマーロフの背後には、機関銃を持った二人の戦士と、「勝利か死か」というアラビア語のスローガンと軍刀の絵の描かれた黒い聖戦旗が映っていた。ウマーロフはチェチェン語で話し始めたが、途中から突然ロシア語を喋り出した。ドック・ウマーロフの左にいたアラブ人がウマーロフに顔を寄せ、何かをアラビア語で喋り始めた。アラブ人は最後にロシア語でこう言った。「あなた(ドック・ウマーロフ)がアッラーの教えに従う限り、私はあなたに従おう」。その後、ウマーロフは、カメラ目線になり、ロシア語で述べた。「かつてハッターブやアブ・ワリド、アブ・ハフスが従ってきた預言者ムハンマドイスラム共同体の司令官は、今日コーカサスイスラム戦士の最高司令官である私の忠誠の対象でもある。ジョハール・ドゥダーエフやマスハードフ、ヤンダルビーエフ、アブドゥル・ハリム・サドゥラーエフ、シャミーリ・バサーエフ、ムハンナド―彼はコーカサスから遠く離れたアラブ諸国から聖戦のためにチェチェンにやって来た、アッラー大義にどこまでも忠実で、アッラー以外の目的のために戦う人間には決して忠誠を誓おうとしなかった人物なのだが―そういった指導者たちが亡くなった後、私は司令官になった」
 ムハンナドが公式の面前でドック・ウマーロフに忠誠を誓ったことによって、次の疑問がわいてくる。ウマーロフと彼の戦友たちは、なぜこんなショーを必要としたのだろう?これはショー以外の何者でもない。昨年7月、ウマーロフは、当時コーカサス反乱軍の軍事司令官だった自身が任命したアフマッド・イェフロエフ(マガス)の副官にムハンナドを指名した(8月2日付チェチェン・ウィークリーを参照)。つまり、ウマーロフは昨年7月からムハンナドが自らに忠誠を誓っていることを知っていたのである。そうであれば、なぜ、昨年9月に、ウマーロフはムハンナドに再び忠誠を誓わせ、その儀式をビデオに収めたりしたのだろう?
 ドック・ウマーロフのビデオ演説を聞く限り、おそらく真実でありそうな答えが見えてくる。ウマーロフは、「アッラー以外の目的の為に戦う」人間に対してムハンナドが決して忠誠を誓わなかったと述べている。ウマーロフのこの台詞は、イスラム世界のある勢力が、ウマーロフに対して、彼らが宗教的な目的のために戦っていないのではないかという疑いをかけている可能性があることを示している。おそらくは、公式の場でムハンナドに忠誠を誓わせることは、ウマーロフの信仰心を証明するために必要だったのだろう。
 ドック・ウマーロフはビデオ声明でこう述べている。「北コーカサスにおけるイスラム戦士としての戦いは、すべてアッラーの名のもとに行われる。問題は、すべてのコーカサスイスラム戦士の法学者がアラビア語を話せるわけではなく、そのため世界のイスラム教徒(ロシア国外のイスラム教徒のこと)は我々が何のために戦っているのかということをつねに正しく理解できるとは限らないことである。我々は、現世におけるアッラーの信託の勝利と、北コーカサスにおけるイスラム法の確立のために戦っている」。ビデオ声明の中で、コーカサスの反乱軍はアッラー大義のために戦っているということを、ウマーロフが三度にわたって繰り返したことは、注目に値する。ウマーロフは、彼の主張に懐疑的な人々を説得しようとしているように見える。そして、ハッターブやアブ・ワリド、アブ・ハフスの後を継いで、チェチェンにおけるアラブ義勇兵の新司令官だったムハンナドが、ウマーロフの言葉に信頼性を与えるために必要だったというわけだ。
 さらに、ドック・ウマーロフは、自身がシャミーリ・バサーエフなど故独立軍司令官の継承者であることを強調し、それによって信頼を得ようとしている。
 このビデオは、ウマーロフによる一種の資金集め―アラブ諸国の投資家を惹きつけ、コーカサス独立運動を支援させようとする宣伝―であると見なすことができるだろう。
 ムハンナドは、アラブ人であるがゆえに、この資金集めにおいて死活的な役割を果たしているのである。今日、コーカサス反乱軍にとって、海外からの主な資金源はトルコである。チェチェン独立派を支持するトルコ人や、トルコのコーカサスディアスポラが、彼らに資金を出している。昨年、ウマーロフがトルコに派遣した使節団は、軍事金を集めるための主要機構として、地元のチェチェン情報センターを再組織した。色彩鮮やかなトルコ語のウェブサイト「アル・カフカス」―チェチェンとイングーシ、ダゲスタンの反乱軍の最近のビデオと写真が満載されている―は、トルコでコーカサスの聖戦を宣伝するために立ち上げられた。
 それでも北コーカサス全面戦争のためには多くの資金が必要であり、トルコからの資金だけではすべてを賄うことはできない。ロシアの闇市場での武器はますます値上がりしている。かつてならチェチェンでロシア兵士から携行式ロケット弾を買えたはずの資金は、いまやウォッカ一瓶分にもならないほどだ。
 ウマーロフは、コーカサス軍に対する財政支援を安定させるために、アラブ諸国イスラム組織と関係を再構築しようとしている。けれども、チェチェン人独立派司令官がアラブ人に訴えようとするときに必ず直面する問題がある。それは、彼らが国際的な聖戦運動と同じ目的に向かって戦っていることを証明しなければならないことだ。チェチェン人に対する聖戦士たちの要求ははっきりしている。1999年のアッザム・ウェブサイトはこう掲載している。「あなた方(チェチェン人たち)が独立のために戦っている限り、我々はあなた方を支持しないが、聖戦をするのであれば支援しよう」
 「アラブ人たちは決して金を浪費しない」とは、2003年にカタールでロシア諜報員に暗殺された独立派指導者のゼリムハン・ヤンダルビーエフが、かつてインタビューで語ったところである。ドック・ウマーロフに資金を出すイスラム組織やイスラム教徒は、コーカサスの反乱軍がイスラム国家の建設という目的を共有しているかどうかを確かめようとしている。聖戦士たちの手法は、イスラム国家を建設するために暴力的な手段を用いるというものである。なぜなら、「一神教が聖戦によって実現しないなら、それは伝統にはなるが宗教にはならないからだ」(ムラド・バタル・アル・シシャニ、チェチェンにおけるアラブ人戦士の興隆と没落、2006 年9月14日)。コーカサス反乱軍の聖戦の(潜在的)スポンサーたちは、チェチェン独立派指導者たちがこれまで宣言してきた「自由」という言葉には信用を置いていない。ビデオ声明で、ウマーロフは「イスラム教徒は自由なきイスラム教を支持しない。我々はコーカサスを解放し、イスラム法にもとづく国家を建設する」と述べている。自由を政治的に実現するためには民主主義という形式が必要になるが、国際聖戦士たちは、イスラム教と厳格な法によって誰もが縛られる国家を作ろうとしている。タリバン支配下にあったアフガニスタンや、スンニ派アルカイダ支配下にあるイラクのように。強制があるところ―唯一のイデオロギーが支配し、それ以外のイデオロギーが存在を許されない場所―に自由は存在しない。
 そうしたイデオロギーの問題にもかかわらず、ウマーロフは海外からの財政支援を増やす好機をつかんだようである。聖戦士たちがコーカサスの聖戦についてどう考えようと、彼らが勢力を保っており、ロシアの占領に抵抗しているという事実を無視することはできないのだから。アフガニスタンタリバンイラクアルカイダは思うように暴動を起こすことができず、アルジェリアパレスチナソマリアカシミールの地元のイスラム戦士の作戦が成功したという話も最近は聞かないが、北コーカサスの反乱軍は勢いを増し、イングーシを始めとする北コーカサスに戦闘地域を拡大している。