EU:欧州議会議員たちがロシア―チェチェン問題に対するEUの弱腰を批判


チェチェンにおいて、人権問題はしばしば経済問題にすり替えられる。それは人権と民主主義という理念を掲げるEU諸国も変わらない。以下の記事から読み取れるのは、先日のチェチェン議会選挙中に暴動が発生しなかったことを「安定と民主主義への新たな一歩」と謳う一方、チェチェンで日常的に行われているロシア軍による人権侵害には目をつぶってみせるEU指導者たちの本音と建前の乖離である。チェチェン問題の本質は、ロシアによる人権侵害ではなくチェチェン人自身の貧困にあると、彼らは主張する。チェチェン戦争は、ロシアのみならず欧州をも、プロパガンダによって分裂させているかのようだ。


EU欧州議会議員たちがロシア―チェチェン問題に対するEUの弱腰を批判

Ahto Lobjakas
http://rferl.org/featuresarticle/2006/01/D3A3DEBB-4431-4A15-9ADD-88B24CCBE015.html

本日、欧州議会*1議員たちは、しばしば「外交的」にすぎると指摘されるEUのロシア―特にチェチェン問題―への態度を批判した。欧州委員会*2の代表と欧州理事会*3議長国の代表は、ロシア―チェチェン問題に関して討議する数少ない機会において守勢に回ることを余儀なくされたのだ。両者はどんなコストを払ってもロシアとの対話を続けるべきだと譲らないが、今後は民主主義と人権に対する懸念をより積極的に取り上げることを言明した。

2006年1月18日 ブリュッセル

EUの外交担当者は、ロシアとチェチェンに対する自らの言質が引き起こした、いくつかのひどい怒りの反応に不意打ちを食らっている。

EUの対外関係担当委員のベニタ・フェレーロ=ヴァルトナーと、現在のEU理事会議長国であるオーストリア外務省国際法部門代表のハンス・ウィンクラーは、(チェチェンで)相変わらず続いている状況について討論を行った。

ウィンクラーは、チェチェン紛争の長期化が全(コーカサス)地域の不安定化につながっていることを強調し、EUが(チェチェンにおける)人権状況に関して(ロシアに対して何らかのアクションを起こす)「準備」があるということ、および(チェチェン)一般市民を取り巻く社会状況が劣悪であることに対して非難を表明した。

フェレーロ=ヴァルトナーは、(チェチェンにおいて)人権侵害に携わったすべての加害者が罰せられなければならないとする以前からのEUの主張を改めて繰り返した。「チェチェンにおける治安状況には改善が見られますが、加害者が罰せられずに済む風潮は依然そのままです。失踪や拷問に関しても、報道されているものについてはすべて調査する必要がありますし、法執行当局を含めた全加害者が法廷で裁かれなければなりません」

フェレーロ=ヴァルトナーは、昨年のチェチェン議会選挙はいくつもの「欠陥」―特に外国の監視機関の不在―を伴ったものであったが、(選挙中に)暴動が起こらなかったことはよい兆候であると述べた。彼女は、この選挙が(チェチェンにおける)安定と民主主義への新たな一歩となることをEUが期待している旨を表明した。

NGO規制法

ウィンクラーとフェレーロ=ヴァルトナーはともに、最近採択された、ロシアにおけるNGOの登録と活動を厳しく規制する法律に対して懸念を示している。フェレーロ=ヴァルトナーは、この法案が北コーカサスにおける人道支援物資の配給に悪影響を及ぼしかねないことに言及したが、EUは当法案を遵守するだろうと述べた。

二高官は、次回のロシアとの定期的な―3月に予定されている―人権協議を念頭に、ロシア当局との会談においてEUの懸念を表明することを約束した。

だが、二高官の「外交的」にすぎる態度は、欧州議会議員たちによって即座に批判されるところとなった。1月19日には、ロシアの人権侵害と「不十分な」法による支配の開始を非難する、拘束力のない決議が行われる模様だ。

英国の社会学者リチャード・ハウィットは、ロシアのNGO規制法がすでに悪影響―NGOにとっての明らかな損害―を及ぼしている*4ことを指摘する多くの議員の一人である。

「まず私は、(ロシア)大統領(ウラジーミル・)プーチンが先日NGO規制法に署名したと報じられたこと、それからイングーシ共和国の最高裁判所が英国の人道援助団体『平和・地域開発センター』―私はそのモスクワ代表と今朝会見してきたのですが―に対して活動停止の判決を下したことについて、非常に遺憾であると申し上げたいと思います」とハウィットは言う。「この団体は、約1000人のチェチェン難民の子どもたちに対して人道支援物資を配給してきました。今回のNGO規制法がこの判決に影響を与えたことは間違いありません」

欠陥選挙

欧州議会)議員たちはまた、(チェチェン議会)選挙の実施状況に対するEUの楽観を批判している。ベルギー緑の党のバート・ステイスは、(二高官が)選挙を肯定的に捉えたことは「恥ずべき」ことであると述べる。

エストニア保守派のトゥーン・クラムは、選挙はただ「紙切れの上」で行われたにすぎず、ほとんどの地元の有権者が棄権した挙句に何千人ものロシア兵が投票しているため、結果も無効であると語っている。

今やロシアから追い出されようとしているNGOこそが、チェチェンの状況に関して信頼できる情報の唯一の拠り所である、と主張するのは、ドイツの緑の党員であるミラン・ホラセックだ。

彼らを含め多くの人々は、EUの対外政策担当者に対して、(チェチェンにおける人権侵害に)ただ反対するのではなく行動を起こすよう迫っている。(しかし欧州)議会による議論は、EUの世論形成に重要な役割を果たすものの、それ自身がEU外交政策を直接左右するわけではない。

(一方)オーストリア大臣のウィンクラーは、「外交的な言質」こそがEUの懸念を(ロシアに)伝える唯一の方法であるということを、結論として主張している。

フェレーロ=ヴァルトナーもまた、選挙に関する自身の発言を弁解している。彼女は、選挙は自由でも公正でもなかったが重要な前進があったのだ、と主張する。「あのような困難な状況の中で、初めて暴力を伴わない選挙を行うことができたのです。(欧州)議会の資金援助を受けた地元のオブザーバーはいくつかの不正を報告しましたが、多くの有権者が投票を行い、これまでよりも確実に高い投票率―55%―を実現したのです」

フェレーロ=ヴァルトナーはさらに、(チェチェン)紛争の政治的解決が難しい以上、EUが他の手段を模索することは理に適っていると言う。彼女は、2420万ドルに相当する、北コーカサスに対するEUの社会再建計画について強調する。「(チェチェンが)不安定であることの『基本的な理由』は、チェチェンの人々が貧しくて仕事のない状態に置かれているからなのです」

*1:EU市民によって直接選挙で5年ごとに改選されるEUの議会。議会はストラスブール(本会議場)とブリュッセル(委員会および事務局)にある。

*2:EUの行政執行機関。本部はベルギーのブリュッセル

*3:欧州連合の首脳会議。加盟国の首脳と欧州委員会の委員長によって構成され、年に4回ほど開催される。

*4:同法は2005年12月下旬に両院を通過し、2006年4月に発効の予定。