報告:アレクサンドル・リトビネンコ追悼集会: 「ロシアの闇とチェチェンの平和を考える」

 11月23日(金・祝)、東京・春日で、アレクサンドル・リトビネンコ追悼集会「ロシアの闇とチェチェンの平和を考える」を開催しました。昨年に元FSB(ロシア連邦保安庁)将校、アレクサンドル・リトビネンコが、ポロニウム210という特殊な放射性物質で、何者かに暗殺されてから、ちょうど1年が経ちました。

 1999年に発生し、第二次チェチェン戦争のきっかけの一つとなった連続アパート爆破事件を、「ロシア治安機関による陰謀だ」と主張していたリトビネンコは、なぜ殺されなければならなかったのでしょうか。ロシア研究者でリトビネンコ著『ロシア闇の戦争』の監訳をされた中澤孝之さんをお招きし、お話を伺いました。参加者は約45名。

●映画:「追悼/A リトビネンコ」上映

 まず始めは、ジャーナリストの常岡浩介さんによるリトビネンコへのインタビュー映像から。ソ連崩壊後、KGB-FSBが、ロシアの野党政治家やジャーナリストに対する暗殺作戦を繰り返していたというリトビネンコの貴重な証言だ。

 インタビューの詳細は、こちら:
 http://chechennews.org/dl/20070224distri.pdf

 続いて上映された「追悼/A リトビネンコ」では、死の約1ヶ月前に、ロンドンでの記者会見で、「アンナ・ポリトコフスカヤを殺したのはプーチンです」と告発するリトビネンコの姿が映し出される。作品中には、連続アパート爆破事件が、FSBの自作自演であることを裏づけるような「リャザン」事件についても、詳しい証言がある。

 リトビネンコは、FSBから受けた違法な暗殺指令を公表した1998年の記者会見当時のことを、こう回想する。「FSBから暗殺命令を受けたとき、私は同僚とこんな話をしました。道は三つある。まずは殺すこと。だが、もう元には戻れなくなる。二つ目は、命令を拒否し、降格や解雇を覚悟すること。三つ目は、すべてを公表すること・・・」。すべてを暴露したリトビネンコは、でっちあげの容疑で8ヶ月間収監され、紆余曲折を経て、家族とともにロンドンに亡命する。けれども、彼は亡命先のロンドンで、「プーチンの長い手」に捕えられてしまった。


●中澤さん講演

 ロシアのFSBは、反対派を暗殺することで、プーチン政権を支えている有力な機関である。1999年にモスクワなどで連続アパート爆破事件が起こるまで、プーチンはまったく無名の存在だった。首相就任時には「プーチンって誰?」と言われていた大統領後継者が、一躍「強い指導者」として国民の注目を浴びるようになったのは、このアパート爆破事件に対するプーチンの強硬姿勢とそれを支持するメディアのためだった。「ところが、テロを起こしたのは、プーチンが犯人だと言っていたチェチェン人ではなく、FSBなんです。それを暴露したのがリトビネンコなんですね」

 「『暗殺リトビネンコ事件』という映画が、12月22日から商業公開されますが、その中で、マリーナさん(リトビネンコの未亡人)が『政治的挑発?何の話?1つだけ教えて。ポロニウムはどこから来たの』ということを言っていて、それがすべてを物語っていると思います」

 リトビネンコの暗殺に使われたポロニウム210は、特殊機関でなければ致死量を入手することはとてもできないような高価な放射性物質だ。ところが、英国当局は、分析をすれば製造工場を割り出せるはずの、ポロニウム210の分析結果を公表していない。それはなぜなのか?「リトビネンコの死は、現代のミステリーです」

 映画『暗殺リトビネンコ事件』はこちら:
 http://litvinenko-case.com/


●質疑応答

 Q:リトビネンコは英国の情報員だったから殺されたのでしょうか?

 「リトビネンコが英国で情報活動をしていたのは、英国の機密情報を扱っていたというより、FSB内部の事情を知っている稀有な人物だったからでしょう」(岡田)

 Q:KGB共産党を守るために活動していたと思うのですが、FSBは何を守ろうとしているのでしょうか?

 「プーチン政権を守ろうとしています。反体制派指導者でチェスの元世界王者のカスパロフなど、反プーチン組織を牽制したり、組織犯罪を撲滅しようとしています」(中澤)

 Q:プーチンチェチェンをターゲットにするには、それなりの理由があるのではないですか?

 「ロシアとチェチェンの軋轢は300年におよびます。一般的なロシア人はチェチェン民族には非好意的ですね。『チェチェン・マフィア』という言葉もあって、民族的な偏見があります。ロシアがチェチェンを無理矢理併合したことが、ロシアとチェチェンの関係を今も規定しています」(中澤)

 最後に、『暗殺リトビネンコ事件』の監督、アンドレイ・ネクラーソフのメッセージが読み上げられた。同日にロンドンで行われた追悼集会の様子はこちら:(敬称略、文責編集部)
 http://cinematoday.jp/page/N0012080


●集会資料など

 当日の集会資料とアンケートを公開しています。よろしければダウンロードしてご利用ください。

 集会資料: http://chechennews.org/dl/20071123distri.pdf (1.36MB)

 アンケート: http://chechennews.org/dl/20071123ancate.pdf (106KB)