「放射線被ばくに関する基礎知識」についての質問【第2信】への回答

(転送/転載可)

 おはようございます。

 本日(8月5日)、独立行政法人放射線医学研究所からの回答が届きました。相変わらず回答者の氏名・部署ともに明らかにしていませんが、まずは、そのまま掲載します。質問状は次のサイトにあります: http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20110614/

 質問を出したのが6月14日でした。放医研側が回答の目安としたのが7月1日。実はその日、放医研は問題の文書「基礎知識」の当該部分をこっそりと変更しました。もちろんというか、これについて、当方への通知はありませんでした。そして期限より1ヶ月経ってからの返事。なんとも不誠実です。

 比較してみましょう。

■変更前の文書:「放射線被ばくに関する基礎知識」:
http://chechennews.org/sharedoc/genpatsu_diary/i13_j1.pdf
i13_j1.pdf 直

被ばくした放射線量が、例えばおよそ 100 ミリシーベルト未満では、放射線ががんを引き起こすという科学的な証拠はありません。また 100 ミリシーベルト放射線量では、わずかにがんで 死亡する人の割合を高めると考えられています。日本人は元々約 30%ががんで亡くなっています。仮に 1000 名の方が 100 ミリシーベルトの被ばくを受けたとすると、がんで亡くなる方が 300 名から 305 名に増加する可能性があります。

放射線による影響は、喫煙や食事などの生活習慣を原因とするがんの危険性の数十分の一と言う低い値で、過度に心配する必要はありません。さらに、原子力発電所周辺の避難地域以外では、普通に生活をしている限り 100 ミリシーベルトを超えることは無いと考えられ、普段どおりの生活をしていただいて何ら問題はありません。

 もっとも無責任かつ問題があると考えられた、太字の部分が、削除されました。

■変更後の文書:「放射線被ばくに関する基礎知識」: http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i13

がんは放射線だけでなく、食事、喫煙、ウィルス、大気汚染など様々な要因によって発症すると考えられます。起こった個々のがんが放射線によるものであると特定することはできません。従って、放射線でがんが起きているかどうかを検証するには、多くの集団において、受けた線量とともにがんが起こる確率も上昇することを調べる必要があります。原爆被爆者の調査ではおよそ100ミリシーベルト以上の線量(この線量は臓器ごとに放射線感受性の重みづけをして足し合わせた実効線量と呼ばれる線量で、外部被ばくと内部被ばくを受けた場合はそれらを合計した線量)では、線量とともにがん死亡が増加することが確認されていますが、およそ100ミリシーベルトまでの線量では、放射線とがんについての研究結果に一貫性はなく、放射線によりがん死亡が増えることを示す明確な証拠はありません。しかしながら国際放射線防護委員会(ICRP)は、放射線防護の目的のための慎重な考え方として、100ミリシーベルト未満でも線量に応じてがん死亡が高まると仮定することを勧告しています。ただし、この仮定は放射線防護の観点から用いるべき考え方であり、ごく低い線量を受けた集団で出るがんなどの症例数を計算するのに用いるのは適切でないと、述べています。

日本人は元々約30%ががんで亡くなっています。国際放射線防護委員会の推定によると、仮に1000名の方が100ミリシーベルトの線量を受けたとすると、生涯でがんで亡くなる方が300名から305名に増加する可能性があります。なお、ここで言う100ミリシーベルトとは年間の被ばく線量ではなく、これまで受けた積算線量です。また、この100ミリシーベルトには自然界から受ける放射線量(日本人で年間平均約1.5ミリシーベルト)は含まれません。

 全体に言い訳がましい書き方ですが、ようするに、「安全です」という主張が、「仮に病気になっても、それが放射能によるものとは証明できません」という主張に変わっているわけです。これはほとんど180度、前言を翻すような変更です。現実に放射線を浴びつつ、放医研の文書を信じていた人からすれば、裏切りとすら言えるでしょう。被害が出たって知りません、と言っているのですから。


 では以下、回答を公表します。

To: "'ootomi akira'" Cc: '放医研広報課' Subject: 【放医研:ご回答申し上げます】放射線被ばくに関する基礎知識 サマリー版についての追加質問についてDate: Fri, 5 Aug 2011 14:17:27 +0900

大富 亮 様

 お世話になっております。
 この度は、いただいておりましたご質問への回答が、お約束いたしました時期から大分遅くなってしまいました事、
まずはお詫び申し上げます。

 弊所からの回答を添付いたしますので、ご確認いただければ幸いです。
 なお、回答にも記載いたしましたが、今後も状況の変化に対応した情報提供に務めたいと思っております。

 今後とも弊所の活動へご理解ご協力いただければ幸いでございます。

放射線医学総合研究所
企画部広報課

太字が、当方からの質問文です。

1. 報道によれば、避難地域以外であっても、計画的避難区域の基準以上の放射線量があり、「普段どおりの生活をしていただいて何ら問題ありません」という一文は、明らかな誤りと考えられますが、如何(いかが)。

放医研では事故のそれぞれの段階で適切なアドバイスを出し、それらのうち重要なものを「基礎知識」として、閲覧できるようにまとめてきました。御指摘の部分は、計画的避難区域が設定される以前に作成したものです(4月中旬)。ご指摘のとおり、現在避難地域以外であっても、限定的に線量が計画的避難区域の基準を超える場所が確認され、特定避難勧奨地点として対策が取られています。今後も状況の変化に対応した情報提供に務めます。

2. 「基礎知識」に言う100ミリシーベルトが、「生涯」を通しての数字であり、一般の報道とは異なることを、文書中にわかりやすく記述するべきと考えますが、如何。

ICRP2007年勧告でも、1シーベルト(1000ミリシーベルト)あたり5%のがん死亡というリスク係数が明記されています。、100ミリシーベルトの被ばくにより、生涯で0.5%のがん死亡の増加が推定されることになります。
ただし、毎年100ミリシーベルト未満の低い線量を受け続ける場合については、毎年の線量によるリスクが蓄積するかどうかについては現在のところ明らかではありません。
今後改訂の際に、わかりやすい記述にします。

3. 100ミリシーベルト以下ではがんに至るという証拠がないと断言することは、放医研が依拠するICRPの見解にも反し、「放射線には安全量は存在しない」という国際的な合意にも反すると考えますが、如何。

放射線には安全量は存在しない」という見解は、「放射線には安全量(しきい線量)がある」という見解と同様に、低い線量の放射線の影響に関する考え方のひとつです。がんリスクの推定に用いる疫学的手法では、100ミリシーベルトよりも低い線量範囲ではがんのリスクを明らかにすることができない、ということは、ICRP2007年勧告にも明記されているように、国際的な合意と考えられます。

4. 放医研はこのような文書を発行し、本来なら避難や除染の形で、放射能から防護されるべき人々を、なんら防護措置のない状態に放置する政策を助けていると考えますが如何。

放医研は、放射線の健康への影響について科学的な情報の提供を心掛けています。政策を助けるとか助けないとかの意図はありません。

5. 生活習慣による選択的ながんリスクと、放射能による強制的ながんリスクとを、比較対象にするのは、そもそも妥当でないと考えますが、如何。

放射線は様々な発がんリスク要因のひとつです。現在の福島の状況で、避難、移住を含めて様々な判断をするにあたって、身の回りの様々なリスクを勘案し、リスクの大きさを把握して頂くことが重要です。生活習慣によるがんリスクに関する情報は、このような判断材料として有用なものと考えます。

http://chechennews.org/sharedoc/genpatsu_diary/20110805_houiken_kaitou.pdf
(PDF版:20110805_houiken_kaitou.pdf 直)
当方からの返答はこれから検討します。