ロシア南部で脱線事故、バサーエフのテロ?

ootomi2005-06-13


グロズヌイからモスクワへの列車が脱線。爆破の形跡があるとして、ロシア連邦当局はテロの線で捜査を開始したそうです。幸いにも犠牲者はいない模様。今回の各紙報道では、これらの説明として「バサーエフの報復宣言」がしめくくりに援用されています。5月26−27日のモスクワ大停電の件でもバサーエフが犯行声明を出していることから、今回も似た経過をたどる可能性はあります。

私個人はバサーエフが飛行機を二機同時に墜落させたり、ノルドオスト事件を引き起こしたりする実力は持っていないと思いますし、当のロシア政府も、最終的にはそういう捜査結果を報告していません。声明は声明にすぎないと考えるのが穏当と思います。過去の声明をよく見ても、具体性に欠けるものが多いです。

ですからこの場合、「ロシア政府がテロだと発表した」。そして、バサーエフから犯行声明が出たら、「声明が出た」ということを淡々と伝えていく他ないような気がします。誰も、テロを実際に引き起こしているのが誰なのかを、知る立場にはないためです。

ところで、たとえ嘘であっても、私はそういう声明を出す人物の人間性をいったんは疑いますが、「テロは許せない」という言い方はできません。チェチェンのテロを、批判的に書くよりも、大きな課題があります。私もふくめて多くの人々が、チェチェンでの、ロシア政府/軍によるテロ、人権侵害、政治的権利の剥奪に対して、批判や、反対の声を充分にあげてきませんでした。その結果として、ここ10年で20万人とも25万人とも言われる命が、たった100万人の人口のチェチェンで失われています。この数字は、独立派も、親ロシア派もともに認めているものです。

この殺戮を伝えてこなかった人が、チェチェンテロリズムだけを犯罪として非難することや、知らずにいた人が「テロは許せないが、」といった書き出しで何かを書くことは、無知を顧みないか、あるいはダブルスタンダードの偽善を弄しているか、どちらかを犯していないか。書き手に善意があったとしても、やはり乗り越えなければならない何かを避けているのです。

より大きな問題としての、対チェチェン戦争が存在します。この10年の間に「チェチェンのテロ」によって犠牲となった人々の人数はおそらく千人を出ません。その200倍の犠牲を生み続ける紛争地チェチェンが存在することこそ、恒常的に報じられるべきです。世界がチェチェンに注意を払おうとしないからこそ、注目を集める手段としてテロリズムが跳梁するからです。(大富亮)


東京新聞「爆弾で脱線、42人負傷」チェチェン独立派犯行か
読売新聞:チェチェン発の列車脱線、42人けが…爆発の痕跡
日経新聞ロシア、爆発で列車脱線・チェチェン独立派のテロか
毎日新聞露列車脱線:テロで15人負傷 独立派武装勢力の犯行か