バサーエフの死がモスクワの運命を決定する
シャミーリ・バサーエフの死はロシアに何をもたらすのか?
ラジオ・リバティのリズ・フューラー記者による分析。
ラジオ・リバティ
http://rferl.org/featuresarticle/2006/07/3AEF0FCC-7178-4BE9-B93F-AF5766BF467A.html
2006年7月10日 プラハ
チェチェンの野戦司令官シャミーリ・バサーエフが、7月9日夜、死亡したことによって、北コーカサスに広がる戦闘を終わらせる唯一の合理的な方法として平和的交渉を推進しようとする、数少ないロシア当局者にとって新たな局面が開かれた。
一方、ロシア指導部がその機会を拒絶する場合には、北コーカサスの抵抗運動によって、ボルガ川を越えてロシアの心臓部に戦闘を拡大するという計画−おそらくは4年前に立案・承認された8年越しの統一行動計画−が続けられていくだろう。
バサーエフの死の状況は、依然としてはっきりしていない。彼は、イングーシ共和国の首都ナズランの南東に位置する村、エカジェヴォで、トラックに積まれた爆薬の爆発によって死亡したと言われている。
爆発がモスクワにとって思いがけない幸運であったのか(中略)、あるいはロシア連邦保安局の洗練された監視・傍受作戦の結果であるのかは、いまだに明らかになっていない。
抵抗運動への打撃
サドゥラーエフの死から1ヵ月も経たないうちにもたらされたバサーエフの死は、特に北コーカサス連合戦線を率いる戦略家および調整役としての彼の戦闘経験と役割という点から、確実にチェチェン抵抗勢力に大きな打撃を与えるものである。
だが、サドゥラーエフにせよ、彼の後継者であるドク・ウマーロフにせよ、チェチェンを始めとする北コーカサス共和国におけるロシアの支配に対する抵抗は、当の昔に、誰であれ一人の人間の死によっては−たとえそれがバサーエフのように有力な人物の死であったとしても、彼らに代わる若い世代が台頭しているために−左右されない段階にまで来ているということを明言している。
(中略)
ウラル、ボルガ地域の新戦線
さらに、抵抗勢力は、マスハドフが健在だった4年前から、2010年までの行動計画を立案・推進していた。サドゥラーエフは2005年5月に、6つの「前線」のうち4つをチェチェン国内に、1つをダゲスタンに、もう1つを他の北コーカサス(中略)に敷くという決定を行ったが、それもこの計画の一部であると考えられる。同様に、7月8日に国家防衛評議会がウラル・ボルガ地域に新たな前線を設けることを決定したことも、この計画の一部であると見られる。
サドゥラーエフのもとで、抵抗勢力は−もはやバサーエフの代名詞のようになってしまった−ロシア一般市民に対する大規模なテロ攻撃路線を放棄した。そうした攻撃は、1995年6月にブジョーノフスクで最初にバサーエフによって開始され、2002年10月にはモスクワ劇場占拠事件で、2004年9月にはベスラン学校占拠事件で、より大規模な形で繰り返されたが、それはチェチェンに対する国際的なサポートと共感を損なう以外の何者でもなかった。
より皮肉な見方をすれば、そうした戦略は、チェチェン戦争が国際的な対テロ戦争の一部であると西側諸国に了解させたがっているロシア指導部と利害を等しくするものだった。
(中略)
平和的交渉の機会?
モスクワにとって最大のお尋ね者テロリストであった男の死は、(中略)少なくとも理論的には、交渉によって紛争を解決する上での障壁が消えたことを意味する。
それどころか、国際社会はモスクワが、いかなるテロ行為にも関わっていないとされるウマーロフ*1や、ロンドンに拠点を置くチェチェン独立派外相のアフメッド・ザカーエフらと交渉することを求めてくるだろう。
けれども、多くのロシア当局者は、ウマーロフにせよザカーエフにせよ、バサーエフと同様、テロや戦争犯罪に手を染めていると主張している。先月ロシアの検察長官に任命されたユーリ・チャイカが就任後最初に行ったのは、英国に対してザカーエフの引き渡しを新たに求めることだった。
「計画」通りの出来事
(中略)
こうして、ロシア指導部は、対極にある選択を迫られている。一つは、ウラジーミル・プーチン大統領の「チェチェン化」政策−すなわち、現地の親ロシア軍にチェチェン抵抗軍の残党処理を押しつけ、チェチェン戦争によって傷ついた経済と基盤設備を復興させようとする政策−を捨て、平和的交渉を始めることである。
あるいは、ロシア指導部は、その機会を無視し、全ロシアの軍事・警察・治安機関に対する際限ない攻撃を受ける危険を冒すこともできる。
(中略)
けれども、計画されたボルガ・ウラル前線の始まりによって、まったく新しい局面が布告される可能性がある。第二次チェチェン戦争は、もはや単純にチェチェン戦争という名で呼ぶことができなくなるかもしれない。