カスパロフが語る、「今年の人」プーチン
[もう一つのロシア 12/19]
原文: http://www.theotherrussia.org/2007/12/19/kasparov-on-the-time-person-of-the-year-award-for-vladimir-putin/
米タイム誌は、2007年の「今年の人」にウラジーミル・プーチンを選出した。「もう一つのロシア」による反体制派指導者ガルリ・カスパロフへの独占インタビュー。
まず、この賞がどういう人物に与えられるかということについて、誤解のないように確認しておきましょう。タイム誌によると、「今年の人」賞は、「良くも悪くも、今年最も話題になった」人に与えられます。確かにプーチンは2007年を通じてニュースの渦中にいましたし、明らかに彼はロシア人にとっても国際社会にとってもロシアを悪い方向に変えてきました。
プーチン政権は、反対派を弾圧し、不正な選挙を行い、民主的な機関と市民的自由を組織的に破壊してきましたが、それは2007年に入っていっそう露骨になりました。石油とガスが記録的な値上がりを見せているために、ロシアのGDPは飛躍的に上昇しましたが、ロシアの主要都市以外の場所では、人々の生活水準はまったくと言ってよいほど改善していません。多くは食料品の急騰とインフラの老朽化によるものですが。企業と国家の歳入の大半は、ロシアから欧米の不動産や個人口座に流出し、豊かな人々と貧しい人々との格差は信じがたいほどになっています。
タイム誌は、プーチンを選出した理由として、彼がロシアを国際舞台に復帰させ、「無秩序状態」を克服し、愛国心を復活させたことを挙げています。タイム誌は、プーチンが人権上「困った」行為をしていることについて懸念を示してもいます。これと同じことが1938年のアドルフ・ヒットラーにも言えました。ヒットラーは、1938年にタイム誌の「今年の人」に選ばれました。当時、タイム誌は「ファシズムは自覚している。報道と言論、集会の自由が、自らの存続のために潜在的な危険となることを」と書いていました。これと同じ台詞が、今年の受賞者にも当てはまると思います。
1938年にはヒットラーが悪の勢力であることは明白だったため、タイム誌も旗幟を鮮明にしていました。ですが、プーチンについては、タイム誌はクレムリンのプロパガンダをそのまま受け入れ、プーチンにまつわる神話を無批判に繰り返しがちです。確かに、エリツィン時代には大規模な腐敗がありました。けれども、プーチン政権下で、社会は、よりよく、より効率的で、より平穏なものになったのでしょうか?エリツィン政権とプーチン政権の主な違いは、エリツィン政権下ではまだ自由な報道ができ、何が起こっているかを人々が知ることができたということです。プーチンは、政権に就くとすぐに、こうした可能性と、多くの批判者を消してしまいました。
プーチンが「強いロシア」を作ったというのは、極めつけの嘘です。実際には、プーチンと彼の取巻き連中は、ロシアを内側から食い潰しているのですから。今では権力は、ガスプロムといった巨大企業とそれを運営する一握りの体制派に握られています。プーチンは、エネルギー資源を利用してヨーロッパを威嚇し、ウーゴ・チャベスやマフムード・アフマディネジャドらを優遇したり擁護したりすることで世界の安定を損なっています。ですが、脅迫と挑発を真の強さと混同してはいけません。ツァーリの新しい服は、100%石油とガスから作られているのですから。
「今年の人」賞は、美人コンテストのようなものではありません。ですが、プーチンは欧米を批判しているにもかかわらず、今回の受賞を、勝利の証として、また欧米がプーチンの独裁的な政策とその実施を支持しているとして、国内外で宣伝しようとするでしょう。「今年の人」賞がプーチンを懲らしめるために贈られたのだとすれば、それはクレムリンにとって一足早いクリスマスプレゼントになってしまいました。
プーチンは、タイム誌の記事で、私が先月逮捕された後に記者に英語でコメントしたことをバカにしてくれたので、それについてごく手短に返答しておきます。まず、私は最初はロシア語で喋ったのですが、クレムリンの傘下にあるメディアでは、ロシア語のコメントは決して取り上げてくれません。次に、ロシアのメディアでは反体制的な発言はほとんどと言ってよいほど取り上げられないため、外国の報道陣はたいてい反体制派のイベントに参加するメディアと契約をします。最後になりますが、もしも自分たちが得意なロシア語を使って、プーチン氏に訴えられるようになれば、嬉しいですね。そうなれば、プーチンは、全国テレビで討論をするという私の申し出を受けてくれたり、私が主要紙に寄稿することも認めてくれるでしょうから。