野戦司令官ウマーロフへのインタビュー

2005年7月28日(火)
ラジオ・リバティによるチェチェン野戦司令官ウマーロフへのインタビュー
アンドレイ・バビーツキ)

6月中旬、ラジオ・リバティのアンドレイ・バビーツキ記者がチェチェンに入り、1995年からチェチェンレジスタンスとして2度の戦争を戦っているたった2人の司令官の1人である野戦司令官ドク・ウマーロフへの取材を行った。第2次チェチェン戦争が始まってから、ウマーロフは南西戦線――グルジアとイングーシに接するグロズヌイの南西地区――を指揮している。

アンドレイ・バビーツキ:
「あなたにとって戦争はもう6年も続いています。状況を打開するために、他の方法があるとは思わないのですか?」

ドク・ウマーロフ:
「現時点では、ロシア軍による占領から私たちが完全に自由にならない限りは、他の方法があるとは思えません。というのは、今となっては他の可能性が残されていないからです。それだけではなく、ロシアが、ロシアのいわゆる「軍」が、この国にしてきたことがある以上、私は一個人として他の方法を見出すことはできません。信仰心のある市民や愛国者であれば誰でも他の方法など見つけられないと思うのですが」

アンドレイ・バビーツキ:
「あなたは、人々の大半はロシアから独立して生きていくことを望んでいないとは思わないのですか?私の言う人々とは、チェチェンの人々ということですが」

ドク・ウマーロフ:
「もちろん思いません。今日でも密告者を気にする必要がなければ、話してしまうことで誘拐されるかもしれないと、ロシア軍がこの瞬間にも行っているテロにいつ自分も襲われるか解らないという状況に、怯える必要がなければ、そうした恐怖を一掃することができれば、ロシアから独立して生きていきたくないと考えるチェチェン人は1%ほどではないでしょうか。以前、ソ連のもとでは、ソ連チェチェンは一つの国だったかもしれません。しかし(第2次チェチェン戦争が始まってから)6年が経った今では、ロシアの支配下で生きることを望む人々はいないと私は思っています。今日、人々が独立を望んでいないというようなことが言われるのは、ただ恐怖と行き詰まりの状況があるからで、将来が見えず、気概を失ってしまった人々がいるからです。そして、この種の人々は、自分自身を守るため、保身のために、そんなことを言ってみせるのにすぎません」

アンドレイ・バビーツキ:
「しかし国民投票もしばらく行われていませんし、実際のところこの質問に対して人々がどう考えているのかということを表明する機会はありません」

ドク・ウマーロフ:
「 [ロシア大統領のウラジミール・]プーチンと彼がチェチェンに侵攻させ、武装させ、野放しにしている彼の私兵が権力を握った今となっては、(第1次チェチェン戦争当時)戦争に反対していた知識人も、もはやロシアのもとで生きることを望んではいません。彼らもロシアを追い出すことだけを願っていますし、あの野蛮人たちに出て行ってもらえさえすれば、誰か他の者に支配される方がまだしもましでしょうからね。(中略)しかし今日彼らはおそらくFSB[連邦保安局]やプーチン政権の機構が生み出してきた恐怖によってくじかれています。ロシアがチェチェンで行っていることは、すべて、人間の魂を砕くために、人々から人間性を失わせるために、なされているのです。そして、人々に対して蛮行を行うことで、彼らはかなりの程度それに成功しています」

アンドレイ・バビーツキ:
「この戦争が終わるという希望は儚いもののように思えます。あなたたちが武力によって停戦を勝ち取る可能性はありません。あなたは何を望んでいるのですか?」

ドク・ウマーロフ:
「すべての支配には終わりがあります。プーチンの時代は終わりを迎えていますし、こんな体制は、こんな帝国は、遅かれ早かれ終わらざるを得ないのです。だからといって、今、(ロシアに)屈従し、彼らと生きるために(戦いを)止めることは、事実上不可能です。自尊心を持った人間なら、ここで戦いを止めることなどできません。恐怖に囚われている人々は、自分たちの自由のために必要な道を歩いていく意志の力がないのですから、自尊心のある人間ならそんな人々と共存することはできません。なぜなら彼らは戦いを選んだ人間の尊厳を奪ってしまうからです」

アンドレイ・バビーツキ:
「この森には、もはやイスラム過激主義によって動いていない人々はいない、つまり、誰もがイスラーム法による国家、イスラーム法にのっとった法体系を作ることを望んでおり、チェチェンの伝統的な生き方を拒否しているのだ、と言ったとき、そこにはどの程度の信憑性がありますか?」

ドク・ウマーロフ:
「それはFSBによるファンタジーですね。この戦争が始まってから、イデオロギーの操作というものが、戦争の最前線にまで及んできています。(中略)私は(ムスリムとしてではなく)愛国者としてこの戦争に加わりました。(中略)当時は(イスラームの正式な)礼拝の仕方さえ知らなかったように思います。今では、私はワッハーブ派だとかイスラム過激派信者だとか言われています。まったく笑ってしまいますね。私は戦線を率いていますが、彼らの中にワッハビズムや恐怖を世界にもたらすために戦っている人など誰もいませんよ。全世界がこの2つの言葉にただ踊らされているだけです」

アンドレイ・バビーツキ
「ではテロリズムについて話しましょう。あなたたちの司令官であるシャミーリ・バサーエフはいくつかのテロ行為を計画し、実行に移してきました。彼は自己を弁護するために書簡の中で、奪われたものを奪い返す権利がアッラーによって授けられている(訳注1)のだと言っています」

ドク・ウマーロフ:
「どんな場合でも、今日私たちはそのような権利を持ってはいません。ひとたびそうした手段を用いてしまえば、もう私たちは普通の人間に戻ることはできないと私は考えています」

アンドレイ・バビーツキ:
「ベスランやモスクワでは(チェチェン抵抗勢力による)テロ行為がありましたが、そこで流された血に対しては、ロシア当局だけではなくチェチェン抵抗勢力全体もまた責任を負っています。そのことは、こうしたテロ行為がチェチェン抵抗勢力によってすでに容認されているということを、道徳的な正当性を認められているということを、意味しはしないでしょうか?」

ドク・ウマーロフ:
「そんなことはありません。私たち抵抗勢力の目から見ても、あのような作戦には何の正当性もありません。私たち自身もベスランで起こったことには戦慄しました」

アンドレイ・バビーツキ:
「子どもを人質に取ることは、確実に彼らの命を重大な危機にさらすことになりますが」

ドク・ウマーロフ:
「おっしゃる通りです。明らかに、クレムリンの行動が予測できれば――たとえば私はプーチンと彼の政権を知っているので解るのですが――子どもを人質に取る行為が子どもたちにとって重大な脅威になるだろうということは、事件の最初の日に予期してしかるべきでした。そして、事態は実際その通りになり、作戦もそうして終了したのです(訳注2)」

アンドレイ・バビーツキ:
戦間期には強盗がここ一帯を支配していました。多くのグループが人々を誘拐し、人身売買をしていました。あなたはその時期をどう評価していますか?私の理解によれば、誘拐と人身売買の容疑はあなたに対してもかけられていますよね」

ドク・ウマーロフ:
「私は国家安全保障会議の長官だったので、[1998年7月に]グデルメスで発生したような
民間人同士の紛争を未然に防ぐために、定期的に[野戦司令官アルビー・]バラ−エフや、[野戦司令官ラマザン・]アフマドフ、イングーシ人たち、[イングーシ共和国大統領ルスラン・]アウーシェフといった人々と交渉しなければなりませんでした。(中略)こうした人々と交渉したことで、私は誘拐や人身売買への関与を疑われ始めたのです。(中略)私は身に覚えのない中傷を受けています。(中略)今、チェチェンには10万人のロシア兵がいて、彼らはチェチェン人の遺体を売っています。ロシア兵は殺人と遺体の売買のためにチェチェン人を誘拐しています。今、現に起こっているのは、そういうことなのです」

アンドレイ・バビーツキ:
「11月にはチェチェン議会の選挙が予定されています。あなたはこれがもう一つの傀儡政権的な機構を生み出すことになると思いますか?それとも議会は正当性のある権力機構になり得ると思いますか?」

ドク・ウマーロフ:
「自尊心のある人間なら誰でもそうした選挙に参加したりはしないでしょう。投票もしませんし、立候補もしませんよ。議会は、クレムリンの餌箱に座る、もう一つの傀儡機構になるでしょう。選挙は白々しいフィクションです。しかし、おそらくはクレムリンの餌箱の地位を巡って戦いが行われ、戦いに参加する人間は存在感を増すでしょう。また、彼らはこうした選挙のために政党を形成したことを印象づけようとするでしょう」

訳注1:イスラーム法では一定の条件のもとで同害報復が認められているが、被害者が同害報復を放棄すれば贖罪行為になるということもコーランに定められている。
「我らはあの中で(ユダヤ人に与えた「律法」の中で)次のような規定を与えておいた。すなわち、「生命には生命を、目には目を、鼻には鼻を、歯には歯を、そして受けた傷には同等の仕返しを」と。だが(被害者が)この(報復)を棄権する場合は、それは一種の贖罪行為となる」(第5章45節)

訳注2:チェチェン野戦司令官シャミーリ・バサーエフが関与したベスランの学校占拠事件は、ロシア治安部隊の強行突入によって「収束」し、大勢の子どもを含む300人以上が犠牲になった。