廃墟の上でダンス チェチェンの戦火を生き抜いた少女
(ミラーナ・テルローヴァ著/ポプラ社 \1,500 )
もうじき夏休みが来るので、小さな読書家たちにはぜひこの本を読んでほしい。 チェチェンでの戦争を子どもの頃から経験し、今は遠いパリで勉強をしている若い女性の書いた本だ。だまされたと思って読み始めてみれば、きっとタイムマシーンに乗り込んだように、1994年のチェチェンの世界にいるのに気がつくはず。
14歳のミラーナは、村の学校のダンスパーティーを待ち望む平凡な女の子だ。けれどもパーティーの代わりにやってきたのはロシア軍の戦車で、その年の冬に第一次チェチェン戦争が始まろうとしていた。
南ロシア、コーカサス地方の小さな国であるチェチェンはイスラム教の国だけれども、土着の信仰も残っている。長年仲の悪かったロシアからの独立を宣言していたが、ロシアはチェチェンを諦めていなかった。
戦争の音が聞こえるようになると、村のお母さんたちはイスラム以前にいた「川の女神」のことを思い出した。ある満月の晩、ミラーナたちは巫女代わりに川に行かされ、災いが村に来ないように祈った。大人たちは藁をも掴む思いでそれを見守るけれど、ミラーナはなぜか、チェチェンはもう見捨てられているような気がしてならない。
やがて村に戦闘機がやってきて、爆弾の雨を降らせて人々の命を奪い始めた。
ミラーナの国を襲ったチェチェン戦争は、もう14年近く続いている。だから、日本の中高生が学校に行ったり、アルバイトをしている時、チェチェンの子どもは爆撃機から隠れて地下壕で過ごしていたことになる。
ミラーナは勉強してチェチェン国立大学に進んだあと、機会に恵まれてパリに脱出する。フランスはミラーナが「奇跡のようだ」と思うほど豊かで、新しい友だちが勉強を助けてくれた。
けれど戦争はミラーナを放っておかない。チェチェンの抵抗勢力の大統領マスハドフが暗殺されたニュースが届き、ミラーナは「父を殺されたような気持ち」になった。早くからチェチェンを離れざるをえなかった人々にとって、和平交渉を訴えていたマスハードフだけが平和への希望だったからだ。
皮肉なことに、戦争がミラーナを成長させた。安心して暮らせるフランスから、チェチェンに戻り、またフランスへ行く。そして人々に聞かれるままに、チェチェンの惨状を語り始めるのだった。戦争がひと段落しても、むりやり作られた「平和」の中で人々の心が汚れ、やる気もなくなっている。人権侵害も隠れたところで起こっている。
「言葉でこれを変えられるだろうか?答えは<ノー>だ・・・それでも続けなければならない。外国で語ることなどできない人々のために、続けなければならない」そうミラーナは決意する。
訳者の橘明美さんによれば、ミラーナは情報の交流のために、グローズヌイに「ヨーロッパ文化センター」を作ろうとしているという。
胸が締め付けられるようなエピソードをたくさん交えながらも、この本には、チェチェンでの戦いを見て生きながら、絶望せず、何かよいものを作っていこうとする若い芽がある。まだ戦争を知らない日本の若い人たちに、ぜひ読んでほしい。一人でもこの話に心を打たれる人がいるかぎり、ミラーナの努力は無駄ではないと思うからだ。(大富亮/チェチェンニュース)
書籍情報: http://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=80003810